授粉にまつわる植物と動物の驚異の生態

2014.06.18
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“ダーウィンの蛾”、キサントパンスズメガ(Xanthopan morganii)。口吻は長いものでは35センチに達する。

Photograph by the Natural History Museum / Alamy
 ハナバチやその他の送粉者がいなくなってしまったら、私たちの生活は大変なことになるだろう。送粉者を失うことは、私たちが食料や緑地環境として依存している顕花植物の大部分を失うことでもあるからだ。 アメリカでは6月16~22日は全国授粉週間(National Pollination Week)ということで、世界各地で起きているミツバチの減少問題への憂慮から、送粉者が提供するこの極めて重要なサービスに注目が集まっている。

 しかしミツバチは、約2万種が知られるハナバチの1種に過ぎない。自然界には他にも花粉を運ぶ多くの動物たちがいることを忘れてはならない。ここで、送粉者とそれを呼び寄せる植物に関する驚くべき事実をいくつか紹介しよう。

◆ランの巧妙な罠

 多くのランは、蜜や芳香、花の色など一般的な方法を使って送粉者をおびき寄せるが、この多様性に富んだグループには、変わった受精戦略で相手をだますものがいることもよく知られている。

 だまされた昆虫がランと交尾しようとする、擬似交接と呼ばれる現象もその1つだ。

 オフリス・スペキュラム(Ophrys speculum)というランの花は、その外見とメスの性フェロモンの両方で特定のカリバチに擬態している。

 オスバチはランが出す匂いにうっとりと惹きつけられ、興奮してその花と交尾を試みる。努力の結果ハチの頭には花粉嚢(のう)が付き、団子状の黄色い触角を付けたような滑稽な姿となる。

 デンドロビウム・シネンセ(Dendrobium sinese)という別のランは、おびえるハナバチに似た匂いで、より一層手の込んだ匂いの擬態を行う。

 この中国の希少種は、ハナバチの警戒フェロモンを再現した匂いを出し、ハナバチを捕食する送粉者のスズメバチをおびき寄せている。

◆ガとランの共進化、“ダーウィンの蛾”

 ガの種数はハナバチやチョウの種数よりもずっと多いが、ガは主に夜勤で送粉しているため、彼らの仕事は見過ごされがちだ。

 しかしチャールズ・ダーウィンは非常に賢く、花の受粉に関する自身の研究を続ける中で、まだ誰も見たことのないガを突き止めていた。

 ダーウィンがインド洋のマダガスカル島から入手したランの標本には、アングレカム・セスキペダレ(Angraecum sesquipedale)という種が含まれていたが、このランの距(きょ:花びらの一部が袋状または管状にくぼみ、内部に蜜腺を持つ構造)は、マダガスカルで知られていたどの昆虫もその蜜を吸えないほど長かった。

 ダーウィンは、このランの送粉者は28センチの口吻を持つガだろうと予測した。それから40年以上経った1903年、そのガはついに発見され、キサントパンスズメガ(Xanthopan morganii)と名付けられた。

 この関係は共進化の顕著な例だ。ランは蜜を求めるガの頭に確実に花粉を擦り付けようと距を長くし、ガは蜜に届くように口吻を長くする。どちらも相手の変化に応じて適応を続け、適応形質はどんどん極端になった。

 さらに興味深いことに、マダガスカルにはこれよりさらに長い40センチもの距を持つアングレカム・ロンギカルカル(Angraecum longicalcar)というランも存在する。この事実は、さらに長い口吻を持ついまだ発見されていない別のガが存在することを意味している。

◆最も長い舌を持つ哺乳類は送粉者

 もちろん送粉者は昆虫に限らない。鳥、トカゲ、哺乳類もその役目を担っている。ダーウィンのガと同じような進化を遂げたコウモリも、その中の1つだ。

 2005年にエクアドルの雲霧林で発見されたチューブリップト・ネクター・バット(Tube-lipped nectar bat、学名:Anoura fistulata)というコウモリは、既知の哺乳類の中で体長に対する舌の長さが最も長い。

 この小さな哺乳類は胸郭に9センチの舌を格納しているが、その長さはこのコウモリの体長の1.5倍以上にも達する。

 この並外れた器官は、そのコウモリがケントロポゴン・ニグリカンス(学名:Centropogon nigricans)という蜜が豊富な植物を専門とする送粉者であることを示している。

 幸運なことに、植物とその送粉者には驚きが満ちている。重要なのは、彼らと共存し、その羽音を絶やさないことだ。

Photograph by the Natural History Museum / Alamy

文=James Owen

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