ヒトと類人猿の分岐は1300万年前?

2014.06.16
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ケニアの自然保護区でじゃれ合う男の子とチンパンジー。

PHOTOGRAPH BY MICHAEL NICHOLS / NATIONAL GEOGRAPHIC
 チンパンジーの遺伝子突然変異に関する初の研究によれば、人類が類人猿に似た祖先から遺伝的分化を始めたのは、初期人類と類人猿の共通祖先が存在したと長年考えられてきた年代よりはるか昔、約1300万年前だったという。「Science」誌に6月13日付で掲載された今回の研究は、人類の起源に遺伝という観点から新たな光を当てるとともに、進化と遺伝子突然変異の関係に言及している。

 この研究をはじめとする近年の知見は、初期人類と類人猿の最後の共通祖先が約700万年前に存在したとする、化石記録に基づく見方と矛盾しているようにも思われる。

 しかし、今回の研究には参加していないウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス(John Hawks)氏は、どちらも正しい可能性があると話す。類人猿に似た共通祖先が、700~1000万年前、つまりチンパンジーとヒトの遺伝的分化が起きてからずっと後まで生き延びていた可能性があるためという。

「現代とは違い、古代の突然変異率には大きなばらつきがあった可能性もある」と話すのは、オックスフォード大学にある人類遺伝学ウェルカムトラストセンターのギル・マクベイン(Gil McVean)氏。同氏は、今回の論文の筆頭著者を務めた。

◆チンパンジーの突然変異率

 チンパンジーは、複数の異性と交尾をする。マクベイン氏らの分析によると、この生殖パターンがオスのチンパンジーの遺伝子突然変異率を押し上げているという。

 DNAがヒトと約99%一致するチンパンジーは、現存する種の中で最も人類に近い。ヒト遺伝子の変化や突然変異の確率については、ここ5年間で大規模な研究が行われ、疾患リスクが高齢の父親から子どもに伝わる危険性も指摘されている。しかし、チンパンジーの突然変異率についてはわかっていなかった。

「これは最も根本的な疑問の一つだ」とマクベイン氏。「後世に受け継がれる突然変異は遺伝性疾患の一因であるばかりか、人類の進化の歴史を紐解くヒントにもなる」。

 研究チームは、父親2頭、母親2頭、彼らの子ども5頭からなる、9頭のチンパンジーの遺伝子突然変異を調べた。

 その結果、チンパンジーの遺伝子突然変異率は概してヒトと変わらなかった。しかし、妊娠1回につき約40個の突然変異を子どもに伝えるメスのチンパンジーに比べ、オスが伝達する突然変異の数は3~4個多いことがわかった。マクベイン氏らは、チンパンジーの精巣における細胞分裂速度は(ヒトと比べて)はるかに速いため、精子に突然変異が起こりやすく、結果としてより多くの変異が子孫に受け継がれると分析している。

 オスのチンパンジーの加齢とともに細胞分裂の回数は増え、精子に突然変異が起こる機会もさらに多くなる。今回の研究によると、思春期以降、精子の突然変異は年に2個ずつ増えるという。

◆精子の争い

 マクベイン氏らは、複数のメスと頻繁に交尾するオスのチンパンジーの生殖パターンそのものが、精子の高い突然変異率の原因と見ている。

 つまりはこうだ。細胞は分裂によって増える。その際、遺伝子のコピーが娘細胞に伝えられるわけだが、細胞分裂のたびに遺伝子複製の過程でエラー、すなわち遺伝子突然変異の機会が生じるのだ。

 アイスランドのレイキャビクに本拠を置く遺伝子検査会社デコード・ジェネティクス(deCODE Genetics)の遺伝学者カリ・ステファンソン(Kari Stefansson)氏によると、複数のメスと交尾するオスのチンパンジーの体内では、新たな精子細胞が大量に作られ、突然変異の機会も多いという。

 ステファンソン氏はこうも述べる。「父親のチンパンジーを2頭しか含まない小さな標本サイズが欠点だが、方法と結論は理にかなっている」。

PHOTOGRAPH BY MICHAEL NICHOLS / NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Dan Vergano

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