ヨーロッパの農業伝播は地中海経由か

2014.06.10
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遺伝子解析によって、ヨーロッパに農業をもたらした新石器人の移動経路が、小アジアから地中海北部に点在する島々を経由した可能性を示す新しい研究結果が発表された。

MAP BY NG STAFF; SOURCE: GEORGE STAMATOYANNOPOULOS / UNIVERSITY OF WASHINGTON
 およそ9000年前、ヨーロッパに農業をもたらした新石器人の移動経路について、新しい研究結果が発表された。小アジアから地中海北部に点在する島々を経由した可能性が、遺伝子解析によって明らかになったという。 農耕と牧畜は、約1万2000年前に現在の中近東地域で始まったとされる。その後、一連の“新石器革命”が勃興、狩猟採集民に急速に農業が普及し人口が急増、ヨーロッパをはじめ世界各地に移動していった。

 アメリカ、ワシントン大学の遺伝学者ジョージ・スタマトヤンノプロス(George Stamatoyannopoulos)氏は、「安定した食料生産が可能となり、定住生活が始まる。同時に、新天地への移動も盛んになった」と話す。

 同氏をはじめとする研究グループは、地中海沿岸地域に暮らす現代人のDNAを解析し、祖先の移住パターンを探った。

 当時、中近東地域に暮らしていた人々は、まず現トルコ領内のアナトリア(小アジア)地域に移動した後、ギリシャの島嶼(とうしょ)部やシチリア島など西方へ瞬く間に進出し、さらにユーラシア大陸の中央部に北上した経路がうかがえるという。

◆地中海の北岸と南岸で異なる遺伝子的特徴

 DNAの採取対象となったのは、ギリシャの島嶼部をはじめイエメン、パレスチナ、モロッコ、イタリア、スペインなど地中海周辺の32の地域に暮らす数千人の協力者たちだ。まず、ごくわずかな遺伝的差異、一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)を抽出。7万5000件を超えるデータを分類して比較検証を行い、それぞれの地域に特徴的な遺伝子のパターンを特定した。

 各地域内で共通するSNP(スニップ)の特定後は、異なる地域に暮らす人々の間にどのような関係性があるのか判断できるようになる。例えばシチリアの島民とパレスチナ人には、現在トルコ中部に暮らす人々と共通のSNPが存在する一方で、相違える遺伝子変異も存在する。これは、彼らが古代アナトリア人を共通の祖先としながら、別々の土地へ移住した後は交流がほぼ途絶えたことを示唆している。

 収集したデータは、古代アナトリア人の遺伝子が分化して地中海周辺地域に拡散していった事実を示している。ドデカネス諸島やクレタ島など、ギリシャの島嶼地域の住民には、ギリシャ本土やシチリア島、イタリアからヨーロッパ内陸に至る地中海北方地域の人々と古代アナトリアとをつなぐ遺伝子的特徴がみられた。一方、現在のエジプトやリビア、チュニジア、モロッコなど地中海南部沿岸地域では、別の遺伝子的特徴が確認できるという。

◆いまだ諸説ある移動経路

 地中海周辺地域の現代人を対象にした研究結果を受けて、ハーバード・メディカルスクールの遺伝学者ポントス・スコグルンド(Pontus Skoglund)氏は、9000年以上前の祖先の遺伝子を正確に反映しているという確証を得るためには、もっと多くのデータが必要だと指摘する。

 スコグルンド氏によれば、新石器人の骨と現代人のDNAを比較できれば理想的だという。

 また、祖先たちがアナトリア(現トルコのアジア部分)から西へ移動した経路についても、ギリシャ経由のルートを強調しすぎではないかという指摘もある。アドリア海沿岸(現アルバニアやクロアチア)を北上した後、イタリア半島を南下した可能性も十分考えられるからだ。ある考古学者も、「1つに絞る必要はない」と指摘する。

 ただし、どちらにも共通な島づたいの経路が、定住と農耕を基盤とする生活様式を急速に普及させる要因になったようだ。

 専門家の推定によると、ヨーロッパ中部から北部の内陸地域では農業の普及が緩慢で、現バルカン半島からドイツに伝播するまで1000年を要したとされる。だがスタマトヤンノプロス氏は、地中海周辺各地での放射性炭素年代測定から、島々を経由した移住者たちはわずか6世代でイタリアからポルトガルに到達したと結論付けた。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に6月9日付けで掲載されている。

MAP BY NG STAFF; SOURCE: GEORGE STAMATOYANNOPOULOS / UNIVERSITY OF WASHINGTON

文=Andrew Curry

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