弦楽器であり感覚器官であるクモの糸

2014.06.09
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ガラパゴス国立公園、フロレアナ島で巣を張って暮らすギンコガネグモ(Argiope argentata)。

PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
 クモの巣の繊細な糸に降りた露が早朝の日の光を浴びてきらきら輝くのは、何とも美しい眺めだ。この精巧に糸を張った巣が音響の点でも傑作だということを、このほど研究者らが突き止めた。 クモにとって巣は住処であると同時に、弦楽器でもあるようだ。糸の振動回数は非常に多く、クモは糸を引っ張ることで巣の状態や獲物の存在についての重要な情報を得ることができる。

◆低い視力を補う

 クモの糸が強度と柔軟性を兼ね備えているのは驚くべきことであり、長きにわたって科学者たちを引き付けて来た。ほとんどの人工素材はどちらか一方の特性しか持たない。長年の進化の中でクモの糸は組成をゆっくりと微調整し、頑丈になり過ぎずにエネルギーを吸収できる素材を作り出した。

 もっともクモにとっては、自分の糸がハイテク分野に応用されることなどどうでもよい。巣を張るのは獲物を捕らえ、交尾相手を引き付けるためだ。だが普通、巣に捕らわれた虫を人間は目で見つけられるが、クモはできない。視力が非常に低いからだ。

 その代わり、クモは細い糸の振動に頼って獲物がかかった場所を知り、巣が破れた箇所を見つけているらしい。クモが巣をつまんだり引っ張ったりすると全方向に波状の動きが起こり、8本の足で振動を感知できる。

 オックスフォード大学でクモの糸や絹などの素材を研究する「オックスフォード・シルク・グループ」の博士課程学生で、今回の研究の筆頭著者ベス・モーティマー(Beth Mortimer)氏は、「クモは振動を発生させて情報を得ている」と話した。「8本の足があるので、事実上どの方向からの音も聞き取る耳があるようなものだ」。

 モーティマー氏らは最新の研究で、クモの糸がこうした細かい情報をどのように伝達できるのかを明らかにしている。

◆巧みな振動

 モーティマー氏らの研究チームは実験で、巣を張る2種のクモ、ショクヨウジョロウグモ(Nephila edulis)とニワオニグモ(Araneus diadematus)から得られた糸それぞれ1本を使用した。その結果、これら代表的な2種が作り出す糸の振動回数は、他の多くの自然繊維や合成繊維よりずっと多いことがわかった。

 クモの糸がどのように振動するのか測定するため、モーティマー氏らは珍しい方法を用いた。1本の糸にレーザーを当て、次に糸に向かって銃弾を発射したのだ。

 クモは糸の振動方向を決めるのに、もっとありふれた方法を使っている。横波を起こすには巣の上で上下に跳ね、縦波を起こすには糸を何本か引っ張っている。

 この波が糸のタンパク質組成をわずかに変化させ、巣を構成する糸の張り具合を調節して、糸の振動回数を変化させている。クモはこれらの技術を同時に使い、巣のほころびや、かかったと思われる獲物を発見するのに役立てている。

 そしてクモの糸は非常に振動回数が多いため、100ナノメートル(人の髪の毛の1000分の1の細さ)という微小な動きでも感知できるのだ。

 今回の研究成果は、「Advanced Materials」誌オンライン版に6月6日付で掲載された。

PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

文=Carrie Arnold

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