人間の脳は筋肉の退化と引き換えに進化

2014.05.28
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枝にぶら下がるチンパンジー。ヒトに比べて脳は未発達だが、筋力は勝る。

PHOTOGRAPH BY MICHAEL POLIZA / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
 人は誰も、どうしようもなく弱い存在なのかもしれない。 代謝をテーマにした最新の研究によれば、チンパンジーやサルと異なり、人類は貧弱な筋肉組織と引き替えに大きな脳を手に入れた可能性が高いという。

 公共科学図書館(PLOS)の生物学者のローランド・ロバーツ(Roland Roberts)氏は結論として、「驚異的な認知能力を維持するためには高い基礎代謝率が必要だ。ひ弱な筋肉はその代償と考えられる」と述べている。

 専門家は、現生人類とチンパンジーなど類人猿との大きな違いは、現生人類だけがエネルギーを多消費する不相応な脳を持っていることだと指摘している。約600万年前、初期人類の祖先が類人猿に似た祖先から分化を始めたきっかけも脳の発達だった。

 しかし、体全体のエネルギーの20%を消費する大きな脳をどのように手に入れたかという疑問は未だに残る。

 ドイツ、マックス・プランク進化生物学研究所のカタジナ・ボゼク(Katarzyna Bozek)氏が主執筆者を務めた今回の論文は、「人類とそれ以外の霊長類の筋力を比べると、ある大きな違いが見えてくる。それが説明になるかもしれない」と仮説を展開。

 手掛かりは、脳から腎臓まで、さまざまな臓器の代謝がどのようなペースで進化したかにある。腸の代謝が急激に進化したおかげで脳の発達を促したという有力な説に対しボゼク氏たちは、筋肉と脳がエネルギー消費を分け合っているという考察を行った。

 論文によれば、人類は600万年かけて、体の残りの部分が変化するより8倍も速いペースで筋肉を退化させているという。

 骨格筋を分析した結果を見る限り、少なくとも初期人類は類人猿に匹敵する筋力を保持していた可能性が高い。当時と比べても人類の筋肉は大幅に減少している。一方、腎臓をはじめ、数百万年間あまり変化していない体内組織もある。

 脳の場合は、同じ期間に4倍速く進化していた。

 PLOSのロバーツ氏は第三者の立場で、論文の注釈に“興味を引く予備調査”があったと述べている。

「われわれは白亜紀の初期に、当時の代表的な哺乳類、マウスと別の道を歩み始めた。その後、約1億3000万年間かけたマウスより、600万年前から始まった人類の筋肉の変化の方が大きい」。

◆オタクの法則

 研究チームは代謝に関わる1万の分子を分析して得た研究結果を裏付けるため、人間とチンパンジー、さらにマカク属のサルの力を比較した。

 それは、ハンドルを引いて重量物を持ち上げるという実験で、「驚くことに、訓練を受けていないチンパンジーやマカクが、大学レベルのバスケットボール選手やプロの登山家に勝利した」とロバーツ氏は話す。人間の力はほかの種の半分程度だった。

 研究チームはこの結果を説明するために2カ月間、マカクに「カウチポテト族」のような生活を送らせた。体を動かす必要がなく、ストレスに満ち、質の悪い食事を続けるという、典型的な現代人のライフスタイルだ。

 2カ月後、すっかりカウチポテト族と化したマカクたちの筋力を測定したところ、大きな衰えは見られなかったという。研究チームはこの結果から、人間の「だらけた」暮らしは、サルとの筋力の差の3%にしか影響していないと推測。

 ソファに座り込んで読書や映画鑑賞にふける言い訳にはならないが、貧弱な筋肉は進化のたまものだという説がこれで裏付けられたようだ。

 今回の研究結果は、オンライン科学誌「PLoS Biology」に5月27日付けで発表された。

PHOTOGRAPH BY MICHAEL POLIZA / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

文=Dan Vergano

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