有櫛動物ゲノム、進化史の書換え迫る?

2014.05.22
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有櫛(ゆうしつ)動物(クシクラゲ類)には、神経細胞の発達と機能に不可欠と考えられる多くの遺伝子が欠けている。

PHOTOGRAPH BY GEORGE GRALL / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
 美しく虹色に光る生物、クシクラゲ類とも言われる有櫛(ゆうしつ)動物の神経系に関する綿密な研究が、科学者たちを新たな進化論へと導いた。 論文の筆頭著者でフロリダ州ゲインズビルにあるフロリダ大学の神経生物学者、レオニード・モロズ(Leonid Moroz)氏らは、2007年に行ったパシフィック・シー・グースベリー(Pacific sea gooseberry、テマリクラゲ科の一種)のゲノム解読を始まりに、有櫛動物(学名Ctenophora)の研究を長年行ってきた。パシフィック・シー・グースベリーは、ヒトゲノムとほぼ同数の1万9523個の遺伝子を持つことが分かっている。

 その後研究者らは、およそ150種ある有櫛動物のうち10種についてもゲノムの解読を試みた。そして、神経の発達と機能に不可欠と考えられる多くの遺伝子が有櫛動物に欠けていることを発見した。

 欠如した遺伝子のいくつかは、胚における神経細胞の形成に関与している。あらゆる動物の細胞は、胚の中で幹細胞として始まる。幹細胞は、始めはほぼ同一で、やがて特定のタイプの細胞に変わる。胚がある程度発達すると、いくつかの幹細胞は特定の遺伝子にスイッチを入れ、それらが神経細胞に分化する。このプロセスは、人間やほぼすべての動物の神経系において同様である。

 しかし、有櫛動物には神経形成遺伝子が欠如していることが分かった。それは、有櫛動物の胚が今はまだ誰も理解していない異なる指示に基づいて神経細胞を造ることを意味している。

 また、有櫛動物がほかの動物に見られる標準的な神経伝達物質を使わないことも明らかになった。神経伝達物質の遺伝子が、有櫛動物に欠けているかまたは活動していなかったが、一つだけ例外として、神経伝達物質のグルタミン酸は確認された。

 その代わり、有櫛動物の神経細胞の表面には、極めて多種多様な受容体が存在していた。モロズ氏によると、それらはおそらく合計で50~100もの神経伝達物質を受け取っている(人間の脳内にある神経伝達物質の数に匹敵する)。

◆進化史を書き換える

 有櫛動物の神経のユニークな性質は、フロリダの研究者らをこれら海洋生物の新たな進化史の仮説へと導いた。その仮説によると、最初期の生物は神経系を一切持たなかった。これら初期生物の細胞は、環境から直接的に刺激を感知し、周りの細胞に直接信号を送ることができた。

 数百万年後、これらの信号と受容体は神経系の原料物質となった。ただ、その進化は2つの別々の系統に分かれ、1つは今日の有櫛動物、そしてもう1つはクラゲから人間に至る神経系を有するその他すべての動物になったというものだ。

 もし仮に、2系統の平行進化を辿ったとすると、その分岐はかなり前に起こっただろう。現在の有櫛動物によく似た化石は5億5千万年前にさかのぼり、複雑な生命体としては最古の形跡である。

 しかし、正確にいつどのように有櫛動物がほかの動物の系統から分岐したかは、依然として論争の的だ。動物の進化系統樹を描くため、モロズ氏と研究チームは異なる種のDNAの類似性を分析した。それによると、有櫛動物は系統樹の根元でほかの動物から分かれ、独自の系統に属している。

 今回の研究は、米国国立ヒトゲノム研究所の計算ゲノム科学ユニットのリーダー、アンディ・バクセバニス(Andy Baxevanis)氏率いるチームの研究結果を確証するものとなった。彼らは別の有櫛動物のゲノムを解読し、2013年12月に同様の結論に達している。

 研究結果は「Nature」誌に5月21日付で発表された。

PHOTOGRAPH BY GEORGE GRALL / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

文=Carl Zimmer

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