この数十年、カブトガニは人間の健康にとって非常に貴重なものとなっている。予防接種を受けて感染症を免れた人はカブトガニに感謝すべきかもしれない。彼らの血液中に存在する凝固要素は、薬剤や静脈内装置として使用されている。
カブトガニの血液からは、抗ウイルス性や抗癌性の成分も見つかっており、この血液は1パイント(約453ミリリットル)あたり1万5000ドルもの価値がある。1パイントはメス1匹を生かしたまま採取できる最大量にあたり、オスではもっと少ない。大西洋沿岸州海洋漁業委員会(ASMFC)によると、2012年に生物医学産業界では61万1000匹以上のカブトガニが捕獲され、血液を採取されたことが報告されているという。
またカブトガニは、巻貝やウナギを捕るための餌として長く使用されてきた。合成餌の開発も進んでいるが、商業的な餌産業ではいまだに毎年何十万匹というカブトガニをかき集めている。
コーネル大学の共同普及事業(Cornell Cooperative Extension)でボランティアとしてサイトコーディネーターを務めているマルハーン氏、カピエロ氏とともに、筆者もカブトガニの数を数え、標識タグを付けるためにニューヨーク州ロングアイランドの堡礁島(バリアー島)へ赴いた。
米東海岸のどの州にも同様のボランティアプログラムがある。2004年から毎年開催されているもので、6月末まで続けられる。
これらの個体数調査で得られたデータはASMFCが設定する漁獲制限に直接影響し、州ごとに個別に実施される。
◆個体数計数
筆者らが個体数を数えるために使用した方法は、コドラート法(区画法)というものだった。塩化ビニル管で1平方メートルの正方形を作り、カブトガニが産卵している浅瀬にそれを置き、正方形の内側のカブトガニの数を数える。
筆者らは1時間もかからずに数え終わり、オス39匹、メス27匹を記録した。数が少なかったのは、冬の厳寒の影響で今年は海水温が例年に比べ低いせいかもしれない。
◆標識タグ付け
カブトガニに標識タグを付けるには、電動ドリルを用いる。ドリルにはゴム製のガードが付いていて、殻から深く中まで刺さらないようになっている。穴を開けたら、プラスチック製の円盤型タグを殻に取り付ける。
カブトガニにタグを付けるのには、2つの目的がある。オス、メスがそれぞれどれだけの距離を旅するのかを明らかにすることと、彼らの成長を記録する助けとなることだ。発見、捕獲した場合にはその場所を報告して欲しい、というメッセージも書かれている。
実際に報告されたカブトガニの数を知ることは難しい。餌や生物医学用にカブトガニを捕獲している産業界における規制監督は、最小限のものしかないからだ。
◆鳥のごちそう
翌朝、海岸にカブトガニの姿はなく、代わりにコオバシギという小さな鳥が群れていた。彼らはカブトガニの卵を漁っていた。
コオバシギにはカブトガニの卵の栄養が必要だ。約10年前、この鳥の個体数は80%減少した。ニュージャージー州のオーデュボン協会はこの原因について、乱獲のせいでカブトガニの個体数が減少しているためだと主張した。
このことがあってから、カブトガニの捕獲はある程度制限されるようになり、いくつかの州ではコオバシギとともにカブトガニの数が回復してきている。ASMFCの報告によると、南部の州ではカブトガニの個体数が増加しているという。しかし、中部大西洋沿岸地域では維持、ニューヨーク州とマサチューセッツ州ではいまだに減少している。
10年前、生物医学企業は法律で、血液を採取した何万匹ものメスのカブトガニを捕獲した湾へ返すよう義務付けられた。これは、個体数の壊滅的な減少を防ぐ助けとなると見込んでのことだった。現在いくつかの州では法律が変わり、生物医学企業は血液を採取したカブトガニを海へ返すのではなく、餌用に販売することが可能になっている。
PHOTOGRAPH BY ELIZABETH ROBERTSON / THE PHILADELPHIA INQUIRER VIA ASSOCIATED PRESS