2012年、アラスカ州アンカレッジ東部。このアメリカクロクマは生ごみ入れをあさろうと、家から家へ歩き回っていた。

PHOTOGRAPH BY BILL ROTH/ANCHORAGE DAILY NEWS VIA GETTY IMAGES
 人里にクマが現れることによる遭遇事故が増えている。専門家によれば、「クマの生息地」に住む人間が増えているためだという。 今月7日、カナダ、アルバータ州のへき地にあるオイルサンド採掘地で、女性作業員がアメリカクロクマに襲われ死亡した。北米で2014年に報告されたものとしては初のクマによる死者となったが、この1年多発している遭遇事故に新たに1件が加わったにすぎない。

 フロリダ州郊外のレイク・メアリーでは、女性が自宅のガレージで生ごみをあさっていたクマに引きずられ、かまれて重傷を負った。カリフォルニア州パサデナでは、年配の男性が玄関前でヒグマに引っかかれた。またミシガン州キャデラックでは、祖父母宅の近くをジョギングしていた12歳の少女が襲われた。

「アメリカクロクマの生息域全体で、人とクマとの遭遇事故が増えている」と話すのは、野生動物の調査を行っている生物学者で人間とクマとの接触に詳しいジョン・ビーチャム(John Beecham)氏だ。

 クマの生態に関する第一人者、スティーブン・ヘレロ(Stephen Herrero)氏は北米でのアメリカクロクマによる死亡事故の古い記録を調査し、2011年に「Journal of Wildlife Management」誌に発表。1900年から2009年までのアメリカクロクマによる襲撃は59件で63人が死亡しており、そのうち86%は1960年以降に発生していることを明らかにした。

 ヘレロ氏とカナダ、マニトバ州政府の生物学者ハンク・フリスティエンコ(Hank Hristienko)氏が、直近のアメリカクロクマとの遭遇事故を死者の有無を問わず集計したところ、カナダと米国での件数は2010年から2013年までで92件に上った。発生件数は年々増えており、2010年には19件だったが13年には32件となっている。

◆増加するクマの個体数

 国際自然保護連合(IUCN)によれば、北米におけるアメリカクロクマの個体数は推定85万~95万頭となっている。主として保護活動の成果や、クマの生息に適した森林地帯の拡大により、個体数・生息域ともに増加・拡大している。

 IUCNは、アメリカクロクマは米国内の41州に生息しており、それ以外の州でも時々目撃されると報告している。カナダでもプリンスエドワード島を除くすべての州に生息し、メキシコでも少数ながら8つの州で目にすることがある。

 ハイイログマ(ヒグマの北米亜種)の個体数はずっと少なく、北米では通常、アラスカやカナダ北西部などの人里離れた場所に暮らしている。IUCNは北米のヒグマ個体数を5万8000頭前後と推定している。クマの専門家によれば、ヒグマによる襲撃が増えているという証拠はアメリカクロクマに比べて少ないという。

◆残飯あさりを覚えたクマ

 野生生物学者は、至る所でクマが人間のすぐ近くで暮らすことに慣れてきていると指摘する。特に、30~40年前に東部の数州が狩猟を禁止して以降、それが顕著だという。しかも、クマは自然の中よりも人家の生ごみ入れや裏庭で餌を探す方が効率が良いことに気付いている。

「冬眠の準備のため体重を増やしている時期のアメリカクロクマは、1日に2万カロリーも摂取しなければならない」とフリスティエンコ氏は話す。これは野生の果実なら約36キロ、ドングリなら3.1~3.6キロを食べなければならないことになる。

「野鳥の餌台(バードフィーダー)に置かれる餌は、ドングリよりもずっと高カロリーだ」とフリスティエンコ氏。「クマが2万カロリーを野生の果実で取ろうとすれば、餌探しに何時間もかかる。一方、6~7軒の住宅の裏庭でごみをあさって、野鳥の餌台を平らげれば、その日の食事は済んでしまう」。

 米国農務省林野局の全米野生生物プログラム臨時リーダー、シェリル・カラザース(Cheryl Carrothers)氏は、「一部には冬眠をしなくなっているクマさえいるようだ。気候変動も関係あるかもしれないが、人家の周辺では1年を通して餌にありつけることも要因だ」と言う。

 多くの人は、クマが近所に出没し始めたときの基本的な注意点を守っていない。クマが生ごみ入れを開けられないようにする、ペットには室内で餌をやる、野鳥の餌台を外に放置しないといったことだ。野生生物学者らは、一般にこうした誘因物がクマを引き寄せ、人と至近距離で遭遇することになると警告している。

PHOTOGRAPH BY BILL ROTH/ANCHORAGE DAILY NEWS VIA GETTY IMAGES

文=Reed Karaim