中国、雲南省の棚田で農作業に精を出す稲作農民。

PHOTOGRAPH BY JIM RICHARDSON / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
 米と小麦は、世界中で中心的な食糧として利用されてきただけではない。人々の考え方、価値観にも影響を及ぼしてきた。その違いは劇的なほどだ。 このほど発表された、中国の異なる地域出身の人々を比較した研究で、米国バージニア大学のトマス・タルヘルム(Thomas Talhelm)氏らのチームが、稲作地域出身の人々は小麦生産地域出身の人々に比べ、考え方が相互依存的で全体の和を重んじることを明らかにした。

 タルヘルム氏はこの違いについて、稲作に必要な集団の協力や全体的な労力が、小麦よりもずっと大きいためだと考えている。田植えから刈り入れまでを順調にこなすには、農家は連携して入り組んだ用水路を整備したり、家同士で作業を互いに手伝ったりしなければならない。長い年月の中で、このようなチームワークの必要性が相互依存的、集団主義的な性質を育む。一方、小麦は他の農家と連携しなくとも栽培できるため、小麦農家は個人主義に傾く。

 タルヘルム氏は、長江(揚子江)を挟んだ近隣県の出身でも、栽培している作物が違えば考え方も違うことに気が付いた。「出身県が隣同士でも考え方に違いが見られる理由を説明できる理論は、他には見当たらない」とタルヘルム氏は話す。

 今回、研究チームは中国を対象としたが、研究結果は国同士のより大きな違いも説明できる可能性がある。日本や韓国といった東アジアの国々は、長い稲作の歴史を持つ。これらの国の人々は、発展の度合いが同程度の他の国々に比べて相互依存的で、個人主義の傾向は小さい。

 加えて論文では、今回の結果は東アジアの人々の気質が通常イメージされるよりも多様であることを示すと指摘している。東アジアはしばしば人々の考え方がどこよりも相互依存的だとステレオタイプ化されるが、小麦を生産する中国北部の人々は個人主義的で分析的な思考を見せた。これは一般的に西洋の特徴とされるものだ。

◆考え方の特性を測る

 協力を必要とする農業と、牧畜や漁業などの個別性の強い生業では心理的影響が異なることは、他の研究がすでに指摘している。ミシガン大学の心理学者リチャード・ニスベット(Richard Nisbett)氏は、今回の研究は農耕形態の違いも人間の心理に影響を及ぼしうると示すことによって「一連の研究を大きく一歩前に進めた」と評価する。

 タルヘルム氏が「稲作理論」を思い付いたのは、中国で数年教員を務め、北部と南部の文化的な違いに気付いたことがきったけだった。「北部の人は話し方などが直接的に思えた。一方、南部の人は集団の調和を気に掛け、いさかいを避けていた」。

 その後タルヘルム氏は、中国は長江によって南北に二分され、北部は小麦、南部では米を作っていること、どちらの地域でも作物は何世代もの間変わっていないことを知った。

 栽培する作物の違いが心理的な特性の差をもたらしているのかどうかを調べるため、タルヘルム氏のチームは、中国のさまざまな地域出身の漢民族の学生1162人を募り、「列車」「バス」「線路」など三つ一組にした言葉を見せた。その中で共通点のある二つを組み合わせるよう指示されると、稲作地域出身の参加者は「列車と線路」のように具体的な関係に基づいた組み合わせをする傾向があったのに対し、小麦生産地域出身の参加者は「列車とバス」のように抽象的な類似性に基づいて分析した組み合わせを選んだ。

 こうした違いは長江を挟んで隣り合う地域間でも見られ、物の見方がはっきり異なることの説明として、気候や言語といった他の要因は除外されると考えられた。

 両地域の違いを測るのに他の課題も用いられたが、やはり同様の結果となった。自分とつながりがある人々を円で描いてもらう実験では、稲作地域出身の参加者は自分自身を友人よりもやや小さな円で表したのに、小麦生産地域出身の参加者は、自分自身を他者よりも1.5ミリ大きな円で表した。

 今回の研究成果は、「Science」誌5月9日号に掲載された。

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文=Ed Yong