“ピノキオ・レックス”の愛称で呼ばれる新種のティラノサウルスが中国で発掘された。 正式名をキアンゾウサウルス・シネンシス(Qianzhousaurus sinensis)と称する新種の恐竜は、数本の小さな角が生えた細長い口先が特徴で、いとこのティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)が持つ筋肉質の短い口先とは大きな違いがある。
全長約9メートル、体重800キロのピノキオ・レックスは、体長13メートルのT・レックスよりも小さく身軽だったと思われる。両者はちょうど恐竜時代が終わりを迎える6千6百万年前、白亜紀後期に隣り合わせで暮らしていた。
研究者らは“百万に一つ”の新しい完全なキアンゾウサウルスの骨格を、化石が豊富で近年急速に発展している南部の都市、江西省カン州市の工事現場で偶然発見した(学名は、カン州市の英字表記“Qianzhou”にちなむ)。
研究のリーダーで北京にある中国地質科学院のリュウ・ジュンチャン(Lu Jun-chang)氏によると、その恐竜は死んで間もなく泥に埋もれ、水や空気による侵食から免れたおかげで化石が完全な状態で保存された。
◆長い口先の謎
長い口先を持つティラノサウルスの化石は過去2例しか見つかっていない。両方ともモンゴルで発見され、ティラノサウルス科アリオラムス属に属する。
このように希少な化石記録では、これら2つの化石が新しい恐竜の分類に属するのか、それとも大人の口先に成長していない若いティラノサウルスなのか知るすべはなかった。
研究の共著者でスコットランド、エディンバラ大学の古生物学者スティーブン・ブルサット(Stephen Brusatte)氏は、今回の証拠によって“ピノキオ・レックス”が長い口先を持った固有種であることは明確であると述べる。
ブルサット氏と同僚らがそのように判断するのは2つの理由がある。1つは、その骨格がアリオラムスのものより2倍も大きく、すなわち成長しきった大人の恐竜を示唆している。
2つ目は、数百ものティラノサウルスの頭蓋骨を観察した研究者なら、年齢と共に骨がどのように結合するかを熟知している。つまり、キアンゾウサウルスの頭蓋骨は完全に結合し、それが成熟したT・レックスに似ていた。
メリーランド大学の古脊椎動物学者トーマス・R・ホルツ・ジュニア(Thomas R. Holtz, Jr.)氏はこの研究に携わっていないが電子メールによるインタビューで、「それは子どものティラノサウルスではなく、口先の長い新種のティラノサウルスにほぼ間違いない」と断言した。
◆特定の働きを持つ口先
ではなぜ口先が長いのか? 研究者らはコンピューターモデルを使ってどのような種類の獲物が捕まえやすいか調べることを計画している。例えばワニのように長い口先を持った現代に生きる動物は魚の捕獲を得意とする。
キアンゾウサウルスは弱い顎を持つため、T・レックスほど強い力で獲物に噛みつくことはできなかっただろうと研究者らは述べる。したがって、新種のティラノサウルスはT・レックスが狙う獲物より小さくて捕まえやすい獲物を追いかけたと考えられる。
カン州市で見つかった化石記録は、そこに多くの食べ物が存在していたことを明らかにしている。その環境にはトカゲなど無数の生命体を育む豊かな森や水があり、オビラプトルと呼ばれる羽毛の生えた小型恐竜や首長の草食恐竜が生息していたことが分かっている。
2種類のティラノサウルスの異なる食事情は、少なくとも彼ら同士は比較的調和を保ちながら共生していたことを意味している。
今回の研究結果は、科学誌「Nature Communications」に5月7日付で発表された。
ILLUSTRATION BY CHUANG ZHAO
全長約9メートル、体重800キロのピノキオ・レックスは、体長13メートルのT・レックスよりも小さく身軽だったと思われる。両者はちょうど恐竜時代が終わりを迎える6千6百万年前、白亜紀後期に隣り合わせで暮らしていた。
研究者らは“百万に一つ”の新しい完全なキアンゾウサウルスの骨格を、化石が豊富で近年急速に発展している南部の都市、江西省カン州市の工事現場で偶然発見した(学名は、カン州市の英字表記“Qianzhou”にちなむ)。
研究のリーダーで北京にある中国地質科学院のリュウ・ジュンチャン(Lu Jun-chang)氏によると、その恐竜は死んで間もなく泥に埋もれ、水や空気による侵食から免れたおかげで化石が完全な状態で保存された。
◆長い口先の謎
長い口先を持つティラノサウルスの化石は過去2例しか見つかっていない。両方ともモンゴルで発見され、ティラノサウルス科アリオラムス属に属する。
このように希少な化石記録では、これら2つの化石が新しい恐竜の分類に属するのか、それとも大人の口先に成長していない若いティラノサウルスなのか知るすべはなかった。
研究の共著者でスコットランド、エディンバラ大学の古生物学者スティーブン・ブルサット(Stephen Brusatte)氏は、今回の証拠によって“ピノキオ・レックス”が長い口先を持った固有種であることは明確であると述べる。
ブルサット氏と同僚らがそのように判断するのは2つの理由がある。1つは、その骨格がアリオラムスのものより2倍も大きく、すなわち成長しきった大人の恐竜を示唆している。
2つ目は、数百ものティラノサウルスの頭蓋骨を観察した研究者なら、年齢と共に骨がどのように結合するかを熟知している。つまり、キアンゾウサウルスの頭蓋骨は完全に結合し、それが成熟したT・レックスに似ていた。
メリーランド大学の古脊椎動物学者トーマス・R・ホルツ・ジュニア(Thomas R. Holtz, Jr.)氏はこの研究に携わっていないが電子メールによるインタビューで、「それは子どものティラノサウルスではなく、口先の長い新種のティラノサウルスにほぼ間違いない」と断言した。
◆特定の働きを持つ口先
ではなぜ口先が長いのか? 研究者らはコンピューターモデルを使ってどのような種類の獲物が捕まえやすいか調べることを計画している。例えばワニのように長い口先を持った現代に生きる動物は魚の捕獲を得意とする。
キアンゾウサウルスは弱い顎を持つため、T・レックスほど強い力で獲物に噛みつくことはできなかっただろうと研究者らは述べる。したがって、新種のティラノサウルスはT・レックスが狙う獲物より小さくて捕まえやすい獲物を追いかけたと考えられる。
カン州市で見つかった化石記録は、そこに多くの食べ物が存在していたことを明らかにしている。その環境にはトカゲなど無数の生命体を育む豊かな森や水があり、オビラプトルと呼ばれる羽毛の生えた小型恐竜や首長の草食恐竜が生息していたことが分かっている。
2種類のティラノサウルスの異なる食事情は、少なくとも彼ら同士は比較的調和を保ちながら共生していたことを意味している。
今回の研究結果は、科学誌「Nature Communications」に5月7日付で発表された。
ILLUSTRATION BY CHUANG ZHAO