仏教の教えに通じるダーウィンの共感論

2009.02.16
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
チャールズ・ダーウィン(上図)は知らなかったに違いない。顔の表情研究の第一人者によると、人間の共感についてのダーウィンの見方は仏教の考え方と共通しているという。この研究は2009年2月に発表された。

Picture courtesy James L. Stanfield/NGS
 チャールズ・ダーウィン本人は知らなかったに違いない。顔の表情研究の第一人者によると、人間の共感についてのダーウィンの見方は仏教の考え方と共通しているという。 イギリスの自然科学者ダーウィンは外国文化と交流した経験に基づいて、共感とは、だれかの苦しみを終わらせることにより自分自身の不快感を和らげようとする欲望であると定義した。仏教の教えでも、共感はやや利己的な動機によるものだとされており、チベット仏教指導者のダライ・ラマはこれを「慈悲の心の種」と呼んでいる。

 心理学者ポール・エクマン氏は、「思いやりや道徳に対するダーウィンの見方がチベット仏教の考え方と同じだというのは、驚くべき偶然の一致だ」と言う。エクマン氏は「微表情(micro-expressions)」研究の第一人者で、アメリカFOXテレビの新ドラマ「Lie to Me」(ティム・ロス主演の心理学サスペンス)に登場する主人公のモデルとなっている。

 ダライ・ラマはダーウィンの感情に関する研究書を読んだ後、「自分はダーウィンの支持者だ」とエクマン氏に述べたという。

 エクマン氏は両者の類似点に刺激を受けて、思いやりの特性について研究を開始し、先週末にシカゴで開催されたアメリカ科学振興協会の年次会合で発表した。

 エクマン氏によると、だれでも思いやりを寄せる能力を持っているが、努力しないでも思いやりを示せる人と、そうでない人がいるという。人によって違う理由はまだ解明されていないが、「地球が存続できるかどうかは、思いやりの心を育めるかどうかにかかっている」とエクマン氏は言う。

 1830年代、ダーウィンはビーグル号の5年間の航海に参加した際に感情表現の研究に興味を抱いた。出会った人々の言葉や身ぶりは理解できなくても、顔の表情は読み取ることができたからだ。

 1872年の著書『人及び動物の表情について』の中で、ダーウィンは普遍的な特性として「共感」を挙げている。「ダーウィンはこの本が、すべての人々の共通性を示すことに大きく貢献したと考えていた」とエクマン氏は話す。

 また、当時のほかの学者からの手紙を通じて、ダーウィンが仏教の教えに触れていた可能性もあるという。

 エクマン氏は5年間かけてダーウィンの著書と仏教の教えを研究し、思いやりの心を「シンプル」、「グローバル」、「ヒロイック」の3種類に分類した。

「シンプル」とは、主に母子の間に存在するような本能的な形の思いやりである。「グローバル」は、人々が遠くにいる見知らぬ人を助けるときに示されるもので、2004年のインド洋津波の後に国際援助が集まったのが一例だ。英雄的な行動に駆り立てられるときに生じる心が「ヒロイック」で、他人の生命を救うために凍った沼に飛び込むような場合を指す。

 エクマン氏はダライ・ラマとの最近の共著の中で、「思いやりのジム」を作ってはどうかと提案している。人々の思いやりのレベルを測定し、他人への思いやりを深めるためのエクササイズを提案するそうだ。一方、ダライ・ラマは、耐えがたい苦しみを目にするだけでも思いやりの心は十分に刺激されると信じている。

 ダーウィンは前述の1872年の著書の中で、動物と人間には共通した感情の能力があると熱心に主張しているが、エクマン氏によると、この考え方は後の研究で証明されているという。

 例えば、多くの類人猿の研究では、動物が相手の立場になって考える能力を持っていることが示されている。バージニア州にあるウィリアム・アンド・メアリー大学の人類学者バーバラ・キング氏によると、この感受性は自己認識の高まりから生じるものだという。

「類人猿が感情的にも社会的にも発達した動物でなければ、人間はいまのような人間らしさを持ってはいなかっただろう。私たちは過去の産物なのだ」とキング氏は述べている。

Picture courtesy James L. Stanfield/NGS

文=Christine Dell'Amore in Chicago

  • このエントリーをはてなブックマークに追加