ロシア系住民は領土復活への足掛り

2014.05.06
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ロシアと周辺国で“ロシア系住民”の人口に占める割合(パーセンテージ)。係争中の領土は記載していない。情報ソース:CIA WORLD FACTBOOK。

MAP BY NG STAFF
 プーチン大統領は今月テレビ放映された質疑応答で、「新しいロシア」を意味する「ノボロシア(Novorossiya)」という言葉を口にした。5時間に及ぶ放送の中では一瞬のことだったが、18世紀末にエカテリーナ2世がオスマン帝国から勝ち取ったウクライナ南部と東部を指すこの呼称が、ロシア人たちの間でよみがえりつつある。 プーチン大統領は現在のウクライナのハルキウ、ルハンシク、ドネツク、ヘルソン、ニコラエフ、オデッサに言及し、「帝政ロシア時代にノボロシアと呼ばれていた地域は、かつてウクライナの一部ではなかったことを思い出してほしい」と発言。「ロシアはこれらの領土を種々の理由により失ったが、人々はそこに留まっている」。

 現在ウクライナの南部は農業、東部は工業の中心地となっている。この帯状の地域はかつてオスマン帝国が支配していたが、約2世紀前の征服時にノボロシアと呼ばれた場所であり、今もロシア語が広く話されている。

 プーチン大統領が旧ソ連諸国に興味を示したのはこれが初めてではない。2005年には1991年のソ連崩壊を「世紀の地政学的大惨事」と評し、「何千万人もの同胞や同国人がロシア領土から閉め出される」という憂慮すべき結果に至ったと述べている。

 それから10年近くが経過した今、プーチン大統領は先人たちの地理的失策と自身が捉える決断を覆したくてたまらないようだ。

 国境が絶え間なく変化したロシア帝国とその後のソビエト連邦、混乱の中でのソ連崩壊により、ロシア人のアイデンティティは曖昧な概念となっている。民族間の結婚が広く受け入れられるようになると、ロシア人とそうでない人との区別がさらに複雑化した。

◆ロシア系住民とは?

 ロシア系住民としての要件に関する見方は一様でないため、プーチン大統領が旧ソ連の奥地に住む「同胞や同国人」と呼ぶ人々の推定人口にはばらつきがある。

 米国外交政策評議会(American Foreign Policy Council)の上級研究員スティーブン・ブランク(Stephen Blank)氏は、「まず第一に、ウクライナでは何が“ロシア系住民”を意味するのか?」と問う。「この件に関してロシア人はいいかげんな態度を取ってきた。単にロシア語話者を指す場合もあるが、祖父母にロシアでの居住経験があり、母語がロシア語であればロシア国籍を得られるとする新法も成立した」。

「そうなれば私だってロシア国民だ。ニューヨーク市に抑圧されたロシア系ユダヤ人を救出するためにブライトン・ビーチに侵攻することだってできるだろう」とブランク氏は辛辣なユーモアを交えて続ける。

 ブランク氏が言及する新たなロシア国籍法はa fast track to Russian citizenship、居住権の取得にあたってロシア語力の証明を義務づける新法と共に先週施行されたばかりだ。

 先月併合されたクリミアでは、すでにロシア系住民たちがロシアの一員として迎え入れられている。

◆変化する国境

 ウクライナが「昔から多民族国家であった」という事実が問題をさらに複雑にしていると話すのは、カリフォルニア大学バークレー校で旧共産主義国を専門とする政治学教授M・スティーブン・フィッシュ(M. Steven Fish)氏。

「我々が知る現在の独立国家としてのウクライナはソ連崩壊後の現象であって、あらゆる旧ソ連諸国についても同じことが言える。こういった国々は何世紀もの間、より大きな帝国の一部を成していた」と同氏は話す。

 帝国や国境が絶えず変化した結果、多数のロシア人がウクライナに限らず多くの旧ソ連諸国に居住しており、さまざまな要因が絡み合って現在に至っているとブランク氏は説明する。「幾多の大規模な人口移動が何百年にもわたって繰り返されてきた」。

◆痛みを伴う分裂

 ソ連崩壊から20年以上が経過したが、今も多くの人々が分裂の影響を受け続けている。ソ連崩壊時には約2500万人ものロシア系住民が突如として民族離散を余儀なくされ、2003年までに約800万人がロシアに再吸収された。

 ロシア系住民が多い旧ソ連諸国のうち、クリミアやウクライナ東部が陥っているような大混乱に直面する可能性のある国はあるだろうか? モスクワ在住の歴史学者アレクセイ・ミレル(Alexei Miller)氏は、ロシア系住民が地図上のどこにいるのかという点だけでなく、さらなる危機に巻き込まれることがロシア政府にとって利益かどうかにかかっていると話す。

 また、同氏は「プーチンがウクライナでやっていることはロシア人を助けるためではない。戦略地政学的動機が背景にある」と述べ、ロシアの動機は民主主義のためと称して石油産出国で戦争を始めたアメリカのものとそう変わらないと付け加えた。

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文=Eve Conant

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