薬剤耐性菌の感染拡大、世界で脅威に

2014.05.02
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赤く染色された淋(りん)菌の顕微鏡画像。近年、淋病など多くの感染症で抗生物質が効かなくなっているという。

PHOTOGRAPH BY SCIENCE PICTURE CO. / CORBIS
 世界保健機関(WHO)が公表した報告書によると、突然変異によって抗生物質が効かなくなった細菌(薬剤耐性菌)の蔓延が近年深刻さを増し、脅威が世界中に拡大している。 一般的な腸管感染症や尿路感染症をはじめ、肺炎、新生児感染症、淋(りん)病など、細菌が引き起こす疾患では、従来の治療法がもはや通用しなくなっているケースも多くなっているという。

 米国疾病予防管理センター(CDC)は昨年、アメリカ国内の薬剤耐性菌感染者が年平均200万人にのぼり、うち2万3000人が死亡しているとする報告書を発表したが、今回の報告書はその調査範囲を世界全体に広げた内容となっている。

 薬剤耐性菌の増加はわれわれにどのような危険をもたらすのだろうか。アメリカ、ボストンにあるタフツ大学医学部、抗生物質慎重使用連盟(Alliance for the Prudent Use of Antibiotics)のスチュアート・レビィ(Stuart Levy)氏に話を聞いた。

◆薬剤耐性菌の正体とは?

 感染症を引き起こす細菌のうち、1種類以上の抗生物質に対して耐性(抵抗力)を獲得したタイプを指します。通常の抗生物質では、増殖抑制や殺菌の効果が期待できません。以前は容易だった感染症治療が困難になっています。

◆抗生物質の効力から逃れる仕組みを教えてください。

 耐性菌は、抗生物質を分解または無毒化する能力を獲得して自らの身を守ります。具体的には、ペニシリンなど特定の抗生物質に耐性を示す遺伝子を、突然変異によって発達させたのです。抗生物質を無毒化する酵素が産生されるように変異する、または抗生物質の攻撃対象となる遺伝子部位が消失するなど、耐性遺伝子を獲得すれば増殖が有利になります。

 中には5~6種類の抗生物質に対して耐性を獲得した細菌種もあります。こうなると、感染症治療にどの抗生物質を選択するべきか判断できなくなってしまいます。その上、細菌には外部から遺伝子を取り込む機能が元から備わっています。細菌同士で遺伝子をやり取りして、さらなる耐性を獲得しているのです。遺伝子が人間に反逆するというSFさながらの事態がいま起きています。

◆薬剤耐性菌が蔓延した原因は?

 端的に言えば抗生物質の乱用です。本来、細菌を駆除するために使用する抗生物質は、ウイルスに対して使うべきではありません。風邪の原因はウイルスです。にも関わらず自宅に常備して、風邪をひくたびに効果があると信じて服用する人がいます。これはまったくの誤用です。繰り返しますが、抗生物質は風邪そのものには効きません。必要もないのに抗生物質を使うと、かえって細菌が耐性を獲得する機会を増やす結果を招いているのです。

◆食肉産業で行われている家畜への抗生物質投与などについてはどうお考えですか?

 大きな問題だと考えています。世界で生産されている抗生物質のおよそ80%は、食肉用の牛や豚、鶏に使用されています。投与された家畜は、成長過程で病気になりにくいうえ発育状態も良くなります。しかし、家畜から排泄された抗生物質はほとんど分解されません。細菌に対する効力を保ったまま土壌や水などの自然環境内にとどまり、結果として細菌の薬剤耐性を助長することになるのです。

 ただし、アメリカ食品医薬品局(FDA)は既に、業界における抗生物質の使用を段階的に廃止するための対策を打ち出しています。

◆薬剤耐性菌の増殖と拡大を防ぐためにわれわれにできることは何でしょうか?

 まずは、必要なときにだけ抗生物質を使うようにすることです。また、家畜への使用をやめるべきです。多剤耐性菌(複数の抗生物質に耐性を持つ細菌)に対して効力を示す新たな抗生物質は不足しているのが現状です。いまや人間は、細菌にすっかり翻弄されていると言ってもよいでしょう。

◆新たに開発されている抗生物質はありますか?

 現在、研究が進められている新型の抗生物質は数多く存在します。まだ完成には至っていませんが、少なくともあと一歩の段階までは来ているはずです。

PHOTOGRAPH BY SCIENCE PICTURE CO. / CORBIS

文=Susan Brink

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