ケニアのミツバチの回復力を説明する鍵の大部分は、欧米とは異なった飼育方法にあると研究者たちは言う。

PHOTOGRAPH BY ALBERT DE WILDE/ BULTEN-BEELD/ MINDEN PICTURES, CORBIS
 アメリカやヨーロッパでは寄生虫やウイルスによってミツバチの蜂群崩壊が起きているが、ケニアの集団は今も健康だ。 東アフリカのミツバチに関する驚くべき発見が、欧米で起きている蜂群崩壊に立ち向かう新たな希望を与えている。ケニアのミツバチは、世界の他の地域で何十億ものミツバチを死に追いやっている病原体に対し、強い抵抗性を持つことが明らかになったのだ。

 国際昆虫生理生態学センター(ICIPE)で養蜂を専門とする昆虫学者エリウド・ムリ氏はペンシルバニア州立大学の研究者たちとチームを組んで、ケニアの主要な生態系であるサバンナ、山地、熱帯海岸、砂漠の全てについてミツバチの巣を調査した。巣のサイズとミツバチの数を測定し、寄生虫と農薬汚染物質の影響を検証した。

 オンライン誌「PLOS ONE」で4月16日公開された論文によると、ケニアのミツバチは他の地域のミツバチに壊滅的な被害を与えているのと同じ悪質な病害虫に感染しているものの、驚くべきことに病気に打ち負かされてはいないという。複数の病原体が同時に存在する場合でさえ、巣では健康が維持されている。

◆欧米で消えるミツバチたち

 蜂群崩壊症候群(CCD)は、2006年にアメリカで始まったミツバチの謎の大量死現象だ。CCDに苦しむ巣では、成虫のミツバチが女王を残してあっさりと消えてしまう。米国農務省が昨年出した報告によると、アメリカの養蜂市場ではCCDの発生以降20億ドル(約2000億円)の損失を出しているという。

 CCDの原因については決定的な証拠がなく、科学者たちは何か一種類の病原体や化学物質、あるいは環境問題だけが原因ではないと結論付けている。多くの要因の猛撃によって、ミツバチは10年近く経った今でも痛めつけられ、消え去り続けている。ミツバチヘギイタダニは西欧諸国全体に蔓延しており、1987年にアメリカに上陸してからは「至る所で巣を崩壊させ続けている」と、今回のケニア研究の共著者であるペンシルバニア州立大学のクリスティナ・グレツィンゲル(Christina Grozinger)氏は述べる。腸管に寄生するノゼマも、ミツバチを脅かす病原体だ。養蜂家はこれら2種類の致死病原体を撃退しようと化学戦を続けてきたが、多くは失敗に終わっている。

 単一栽培のためミツバチが採れる栄養が乏しいことや、長距離間の輸送によるストレスも要因の一部だ。寄生虫と同時に感染することで、ハチに打撃を与えてしまうウイルスも存在する。「現在では、ミツバチの死因は免疫系にかかる複数のストレス要因の相乗効果だという説が受け入れられている」とグレツィンゲル氏は語る。

◆アフリカへの侵入

 ムリ氏とペンシルバニア州立大学の共著者メリーアン・フレージャー(Maryann Frazier)氏が、ケニアのミツバチから最初にミツバチヘギイタダニを検出したのは2009年のことだ。ノゼマは、それまでケニアで見つかったことはなかった。しかし今回の研究では、調査地点の中で最も離れた地域を除いて全域に両病原体が広まっていることが分かった。

 しかし一番の驚きは、嬉しい知らせだった。「病原体がコロニーの健康状態にどのような影響を与えるかを解析したが、有意な効果は何も見つからなかった」とグレツィンゲル氏は述べる。厄介な寄生虫がいるにもかかわらず、巣は大きく成長し、ミツバチは正常に仕事をこなしていた。

◆強さの理由は遺伝子か飼育方法か

 東アフリカのミツバチはなぜこんなに回復力が強いのだろうか? 一つには彼らの遺伝子のどこかにその要因がある可能性が考えられる。もしそうであれば、欧米のミツバチに応用して強いミツバチを作ることが可能になるかもしれない。

 しかしグレツィンゲル氏らは、ケニアのミツバチの回復力を説明する要因の多くは、飼育方法の違いにあるのではないかと確信している。今のところ、アフリカのミツバチは比較的人間の干渉を受けずに生活している。この研究では、ケニアのミツバチの巣では農薬がほとんど検出されず、存在する場合でも非常に少ないことが明らかになった。

 ケニアにおける養蜂は通常小規模に家庭で蜂蜜を採るために行われていて、ほとんどの作物の花粉媒介は今でも野生のコロニーに依存している。ミツバチは丸太のうろに巣を作り、養蜂者は伝統的な方法にしたがって、ほとんど手を加えずにその巣を置いておく。

 また、欧米では養蜂で新たな巣に使用する女王バチは、商業用に生産され養蜂家に郵送されるものが、ケニアでは自然の群れからミツバチを、自然に存在する女王バチとともに採集して「家畜化」する。

 もっとも重要なのは、ケニアでは「コロニーを操作することがなく、ミツバチのレンタルもしない。授粉目的でコロニーをすし詰めにして輸送したりもしない」ことだとムリ氏は語る。

◆自然への回帰?

 アメリカの商業農家が大改革を行って、ケニアでのやり方のように「自然に帰る」というのは難しいだろう。しかし、化学物質の使用を減らし、ミツバチが多様な顕花植物へアクセスできるような飼育方法を採ることでハチの健康状態を改善し、変化をもたらすことは可能だとグレツィンゲル氏は述べている。

「多様な景観は花粉媒介者の集団の多様性を高め、作物の授粉にも良い効果をもたらす。それは突き詰めていくと、農家や消費者の利益にもつながるのだ」。

PHOTOGRAPH BY ALBERT DE WILDE/ BULTEN-BEELD/ MINDEN PICTURES, CORBIS

文=Jennifer S. Holland