チャタテムシの新種、N. curvetのメス(上)がオスと交尾を行っている。

Photograph by Yoshizawa Kazunori
 メスがペニスを持つ種が動物界に存在することが、最新の研究で初めて確認された。 ブラジルの洞窟に生息する昆虫のうち、新たに見つかった4種でオスとメスの生殖器が逆になっており、メスは精巧にできたペニスのような器官を、オスが持つ膣のような開口部に挿入して精子を取り込む。

 研究の共同著者で、ブラジルのラブラス連邦大学教授ロドリゴ・フェレイラ(Rodrigo Ferreira)氏は、「こんな昆虫は他にはいない」と話す。「この精巧なメスのペニスは、全く独特のものだ」。

 フェレイラ氏によれば、オスの生殖器が縮小してメスが挿入器を持つ種はわずかに存在が知られているが、これほど複雑なものも、構造的・機能的にペニスに酷似しているものも過去に例がないという。

「研究チームの誰もが驚いた」とフェレイラ氏。「この構造を初めて目にしたときは本当に仰天したよ」。

◆長い交尾時間

 フェレイラ氏と仲間の研究者たちは、ブラジルにある洞窟の真っ暗な壁面や地面を探し回ってこれらの新種を発見した。この生物は未解明の点が多いNeotrogla属に含まれ、一般的にはチャタテムシと呼ばれる昆虫の仲間に属する。

 興味深いことに、研究所でさらに調べたところ、これら4つの新種が持つ「メスのペニス」はそれぞれ微妙に異なっていることが分かった。

 3種はメスの陰茎にとげがあり、種ごとに異なるオスの生殖器内の空間にぴったりとはまる。残りの1種ではメスの陰茎が大きく曲がっており、オスが持つ曲がったくぼみにフィットする。

 メスが持つペニスに似た構造が本当にペニスと同様に機能するのか突き止めるため、研究者らは再び洞窟に足を運び、交尾中の個体を採集しなければならなかった。

 チームは研究所での観察を経て、「メス生殖体(gynosome)」と呼ばれるメスのペニスのような構造が、実際にオスへの挿入器として使われているのを確認した。

 また、これらの種ではオスとメスの交尾が平均で約50時間も休みなく続くことも分かった。生物の中では異例の長時間だ。フェレイラ氏は「あるペアはおよそ73時間も交尾していた。本当に驚いた」と振り返る。

 フェレイラ氏によれば、メスは陰茎に生えているとげによって自らをオスの体にしっかりと固定する。このため、研究者が2匹を引き離そうとすると不注意でオスの体が裂けてしまったが、生殖器は結合したままだったという。

 メスは精子と精液をできる限り多く獲得しようとして、長時間にわたって強制的にオスを拘束しているのではないかと、フェレイラ氏は推測している。

◆なぜ役割が逆転するのか?

 スミソニアン熱帯研究所の進化生物学者で、今回の研究には関わっていないウィリアム・エバーハード(William Eberhard)氏は、この研究を「質が高く」、「心躍る、興味深いテーマ」を提示していると評価する。

 エバーハード氏によれば、このように性別の逆転した生殖器は非常に珍しく、これらの昆虫は性淘汰や生殖器の進化に関する多くの仮説の検証に利用できる可能性があるという。

 例えば共同研究者のフェレイラ氏は、「専門家はチャタテムシの雌雄逆転した生殖器について、過酷な条件下で生息しているために性役割の逆転が起こったからではないかとみている」と指摘する。

 これらの種の生息環境は非常に乾燥した暗い洞窟であり、餌となるコウモリのふんや死骸が不足している。

 そのため、メスは卵をつくり出すのに十分な量の餌をなかなか食べられない可能性がある。そこで、オスから栄養価の高い精液という形で栄養分を受け取る必要があるのかもしれない。フェレイラ氏は、「この点でメスのペニスは、良質の栄養源をオスからもらうのに適した道具なのは間違いない」と話している。

 今回の研究は、「Current Biology」誌4月17日号に版に掲載された。

Photograph by Yoshizawa Kazunori

文=Sandeep Ravindran