イソップ物語に、「カラスと水差し」という寓話がある。喉が渇いたカラスが水差しの水を飲もうとするが、 くちばしが届かない。そこでカラスが小石を次々に水差しの中に落とすと、少しずつ水面が上がり、水を飲むこ とができたというものだ。ジェルバート氏が対象としたニューカレドニアカラスは、同様の実験にどう対応した のだろうか。
ナショナル ジオグラフィックではジェルバート氏に電話取材を行い、今回の研究やカラスの知能について詳 しく話を聞いた。
◆なぜニューカレドニアカラスを対象に選んだのですか?
ニューカレドニアカラスは野生生活において道具を作りますが、そのようなことをする動物種はほんのわずか しかいません。例えば、棒切れの端をくちばしで曲げてかぎ状にし、それをてこのように使って、腐りかけた倒 木の穴からコガネムシやカブトムシの幼虫を引っ張り出すことができます。
◆実験の仕組みはどのようなものですか? 野生のカラスを用いているのでしょうか?
そうです。グランドテール島に大きな鳥小屋を設置してあります。野外に網を張ってカラスを6~12羽捕ま え、鳥小屋に入れて、適切な餌やりと世話をします。そこで3カ月飼育したら野生に戻し、元通りの生活が送れ るようにします。
◆イソップ物語のエピソードをニューカレドニアカラスで実験するという案はどのように生まれたのですか?
私たちの研究は、クリストファー・バード(Christopher Bird)氏とネイサン・エメリー(Nathan Emery)氏 という2人の研究者による優れた業績を基礎としました(2人はミヤマガラスが水中の毛虫を食べるため、水の入 った筒に石を入れて水位を上げることを示した)。水中に石を落とすという行為は、野生のニューカレドニアカ ラスも他の動物もしません。ですが、必要があればそうするのは全く自然ですし、動物の認知能力を試す分かり やすい方法でもあります。
実験では、6羽のカラスに筒に小石を入れることを教えました。その上で、水位変化の原因と結果についてど の程度理解したり、習得できるのかを見るため、数種類の実験を行いました。筒に入った小さな肉にありつこう として小石を入れるとき、水入りの筒と砂入りの筒では結果が違うことや、空洞の物体と中身の詰まった物体で は水位に与える効果が違うことなどを理解できるのか、といった課題を設定しました。
カラスたちは、6つの実験中4つをとても巧みにこなしました。原因と結果、物体の性質についての自然な理解 をあてはめることができたのです。例えば、中身の詰まった物体は水に沈むけれど、空洞の物は浮かぶことや、 砂の入った筒に石を入れても意味がないことを理解していました。しかし、外観だけでは因果関係が分かりにく いU字型の筒を使った実験は非常に苦手でした。ここでは2本の筒がテーブルの下でつながっていることを推測す る必要がありましたが、それができたカラスは1羽もいませんでした。
◆今回の実験で彼らが見せた成功と失敗から、ニューカレドニアカラスの認知能力について何が分かるのでしょ うか?
人間を対象とした心理学では、人々が誤りを犯すときの様子こそ、人の考え方について最も多くを語ることが 多いと研究者たちが明らかにしています。誤りを見ることで、どういう考え方で問題を解決しているかが分かる ということです。これは動物にも当てはまるのか? あるいは、動物が問題を概念化する仕組みは人間と全く異 なるのか? 私たちはカラスが犯す誤りに注目することで、彼らがどのように問題をうまく解決しているのか、 もっと理解できるかもしれません。
今回の研究成果は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に3月26日付で掲載された。
PHOTOGRAPH BY VINCENT J. MUSI, NATIONAL GEOGRAPHIC