火星探査、宇宙飛行士の健康への懸念

2014.04.07
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国際宇宙ステーションで筋力トレーニングに励む日本人宇宙飛行士、若田光一氏。現行の基準では、宇宙飛行 士は飛行前の80%の筋力レベルを維持しなければならない。

PHOTOGRAPH BY NASA
 火星や小惑星への有人探査を実行するには、放射線やその他健康上のリスクから宇宙飛行士を守るための現行基準は変えず例外を認める必要があると、4月2日、米国医学研究所(IOM)の専門家から成る委員会がNASAに注意を促した。 NASAは、宇宙飛行士を2021年に小惑星へ、2030年代には火星へ送り込むことを検討している。また、標準的な 6カ月の滞在期間を超える国際宇宙ステーションでのミッションも計画中だ。放射線被曝や無重力による健康へ のリスクは、滞在期間が長くなるほど高まる。

 NASAの依頼を受けて、委員会の報告書には、救出の可能性が極めて低い危険なミッションに飛行士を送るため の倫理を判断する枠組みが明記されている。それによると、「長期間の探査で高まるリスクに対して唯一倫理的 に許容可能なオプションは、既存の健康基準に例外を認めることだ」。

 NASAの広報担当官ジョシュア・バック(Joshua Buck)氏は、その報告書に対する見解を発表し、「われわれ は人類の探査の限界に挑戦する。しかし、そのような危険なミッションに乗り出す飛行士にも最高の安全基準を 提供するつもりだ」と述べた。

◆危険を選ぶ

 宇宙飛行は骨、心臓、肺を弱め、心理的な問題を含め多くの健康リスクをもたらす。宇宙飛行士の約20%が視 力障害を患っているという2011年の調査結果のように、新しいリスクが次々と見つかっている。さらに、最近で は2003年のコロンビア号空中分解事故による7名の乗組員の死亡を含め、24名の宇宙飛行士が職務中に亡くなっ ている。

 2007年に発行されたNASA宇宙健康ガイドラインは、210日以上宇宙に滞在する飛行士を最も高いリスク・カテ ゴリーに置いている。そのカテゴリーは宇宙船に主治医を配置するレベルに等しいケアを飛行士が受けることを 義務付けている。

 その基準は、宇宙飛行士の宇宙線や太陽フレアからの放射線被曝レベルを、致命的な癌の生涯リスクの3%以 下に保つよう制限している。また、ミッション中、飛行士が飛行前の80%の筋力と75%の有酸素能力を維持する ことも義務付けている。

 火星への探査は、片道6カ月またはそれ以上の飛行時間を要し、放射線による危険性が深宇宙と同レベルな赤 い惑星での長い滞在を伴うだろう。そのような宇宙旅行においてNASAの癌リスク基準を超えないのは、煙草を吸 ったことがない45歳以上の男性と55歳以上の女性だけで、且つ11年周期の“太陽極大期”に、強力な太陽風が深 宇宙から来る有害な宇宙線から太陽系を守る時期に飛行している場合においてのみだ。現在宇宙飛行士として選 ばれる人員の平均年齢は34歳である。

◆倫理的な危険性

 IOM報告書は、許容できない危険レベルを選択するような状況に宇宙飛行士を置かないようNASAに注意を促し ていると、委員会を率いたジョンズ・ホプキンス大学の生命倫理専門家ジェフリー・カーン(Jeffrey Kahn)氏 は述べる。「彼らは探査への好奇心のため自薦を惜しまない志の高い人々だ」。

 カーン氏は宇宙飛行士を、脳外傷リスクとなる脳震盪を起こしてもゲームに再び戻ろうとするナショナル・フ ットボール・リーグの選手に例えている。

 NASAは社会への利益と飛行士が直面する危険性との比重を計りながら、計画中ミッションの倫理的審査を重ね た上で、宇宙飛行士の自発性を基本として深宇宙への探査を提案しなければならないと報告書は記す。また、 NASAは宇宙飛行士に生涯に渡るヘルスケアを提供しなければならない。

PHOTOGRAPH BY NASA

文=Dan Vergano

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