ガラパゴス諸島近海で、海面近くを泳ぐアカボウクジラ。

Photograph by Tui De Roy, Minden Pictures/Corbis
 実態があまりよく知られていないアカボウクジラの新たな長期的研究によって、哺乳動物の中では最大級の深度へ、そして最も長い時間潜水することが明らかとなった。 その新記録は、研究者らが想像したよりも多様で極端なアカボウクジラの行動を表していると、カリフォルニ ア州ラホヤにあるスクリップス海洋研究所の海洋哺乳動物生物学者シモン・ボーマン・ピッカリング(Simone Baumann-Pickering)氏は語る。ある並外れた1頭は水深2992メートルまで潜り、またある1頭は138分間海中に居 続けた。

 マッコウクジラは3000メートル程度まで潜水できる考えられているが、時間は最大で90分程度とされている。 クジラ類以外では、ミナミゾウアザラシが深度2000メートル余り、時間では最大120分ほどという。

 ソナー活動のためにアカボウクジラが地中海、カナリア諸島、バハマの沿岸に相次いで打ち上げられたことを 受け、研究者や米国海軍はそのクジラに特に興味を示していると、ワシントン州オリンピアにあるカスカディア 研究集団の研究生物学者グレッグ・スコル(Greg Schorr)氏は述べる。

 今のところ、海軍のソナー実験海域があるカリフォルニア州南部では、ソナー活動によってクジラが打ち上げ られた事例はないと同氏は付け加える。

 この新しい研究は、クジラの潜水行動を調査する初めての長期的な試みだ。

◆海に出る

 ガルベストンにあるテキサスA&M大学の海洋哺乳動物生物学者ランドール・デービス(Randall Davis)氏に よると、アカボウクジラの研究は非常に困難なことで知られている。彼らは岸から遠く離れた深い海の中でほと んどの時間を過ごす。また、イルカのように船に近づいて船首波に乗って遊ぶこともない。

 アカボウクジラ属の数種は岸に打ち上げられた標本でしか確認されていないと、研究の共著者であるスコル氏 は付け加える。

 また、このクジラは海洋哺乳動物の中でも最も謎につつまれた存在であると、この研究には関わっていないデ ービス氏は言う。それでも、研究者らはこの動物が日々をどのように過ごしているのか、より明確な姿を今捉え ようとしている。

 スコル氏と研究者らは、カリフォルニア州南部のサンニコラス島沖で8頭のアカボウクジラに追跡タグを取り 付け、エサを求めて海に潜る彼らを数か月間に渡って追跡した。

 研究者の誰もが3000メートル近くも潜るとは思っていなかった。当初、スコル氏はあまりに驚いて、タグが正 常に機能していないのではないかと疑った。そこで、イルカに取り付けたものと同様のタグを圧力室で検証し、 その深さでも正確に機能することを確認した。

◆潜水のチャンピオン

 それは目を見張るような最大の潜水深度だと、デービス氏は言う。それほど深く潜るのは、深海にいるイカな どのエサを探すためで、時間とエネルギーを費やすほどの価値があるのだろう。そうでなければ、クジラは潜ら ないはずだ。

 深海では、肺のような空気に満たされた空間がつぶれるなど多くの問題が生じる。さらに、けいれんを誘発す る高圧神経症候群と呼ばれる症状が引き起こされる可能性もある。

 しかし、どういう訳かアカボウクジラを含む海洋哺乳動物は、体に目立った悪影響もなく数千メートルを繰り 返し潜ることができる。

 海洋哺乳動物の胸郭は折り曲げることができ、肺をたたんで空気ポケットを減少させる仕組みがあるとデービ ス氏は説明する。しかし、アカボウクジラがどのように高圧神経症候群を回避しているのかはまだ分かっていな い。

 それは、今後研究者らが解き明かしたいと思っている数ある謎の1つだが、スコル氏と研究者らは、まず基本 的な行動データを収集することに専念したいようだ。

 スコル氏は現在、カリフォルニア州南部でアカボウクジラがソナーに対して異常な行動を示すかどうかを研究 している。「このような長期的な研究は好都合である。あらゆる影響がどれくらい長く続いて、正常な行動に戻 るまでどれくらいの時間が必要かを見ることができる」と同氏は語る。

 研究結果は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に3月26日付で発表された。

Photograph by Tui De Roy, Minden Pictures/Corbis

文=Jane J. Lee