イッカクは、頭部から突き出た螺旋状の牙で有名な北極圏のクジラだ。科学者たちは、その角の意味について、長い間議論を戦わせてきた。 3月18日、イッカクの牙の使い方に関する大胆な学説を提唱する研究論文が公表された。その論文によると、 イッカクの角(実際には歯)は感覚器官なのだという。
論文の著者たちは、通常オスにしか見られないその牙には、海水の塩分濃度といった周囲の環境の変化を感知 する能力があり、イッカクがその極寒の生息地を移動するのに、またもしかすると餌を探すのにも役立っている のではないかと推論している。
しかしこの学説に関しては、大きく意見が割れている。海生哺乳類専門家の多くは、イッカクが周囲の環境を 感知する能力において牙がその中心的役割を担っているというアイディアを否定し、牙は交配相手を惹きつける ためのものである可能性が最も高いと主張している。
「The Anatomical Record」誌に掲載された今回の新しい研究の筆頭著者であるハーバード歯科医学校のマーテ ィン・ウィーア(Martin Nweeia)氏も、牙がクジャクの艶やかな羽のように、メスが交尾する気になるよう惹 きつけるものであることには同意している。しかし彼は、それが必ずしも他の用途を否定するものではないと言 う。
「感覚器官が複数の機能を持つことは、非常によくあること」だと彼は述べている。
◆鋭敏な牙
臨床歯科医であるウィーア氏は、イッカクの牙は解剖学的に見ると、周囲の環境を感知するのに極めて適して いるように思われると主張する。牙の外層には、至るところにチャネル(水の通り道)が散在し、海水が歯の内 部に入り込めるようになっている。
外層は象牙質と呼ばれる下層につながっていて、この象牙質にも細管が存在する。この細管はイッカクの牙の 最深部まで達する。最深部の歯髄は、血管と神経で満たされている。神経はイッカクの牙の基部から直接脳まで 走っている。
他の哺乳類、例えば人間の歯では、異状がない限り冷たい水など外部からの刺激が直接脳に伝わることはない とウィーア氏は説明する。
しかしイッカクでは、常に外界に対して敏感なのが普通なようだと彼は言う。
ウィーア氏が実施した生きたイッカクの研究では、水中の塩分濃度の変化を牙で感知できることが示唆されて いる。塩分濃度の変化とイッカクの心拍数が相関していたのだ。
しかし、ワシントン大学のクリスティン・レイドル(Kristin Laidre)氏は、この実験ではイッカクを捕獲後 すぐに心拍数を計測しているため、心拍数の変化はストレスを反映していて、必ずしも塩分濃度の変化に対する 反応ではないと指摘する。
生物学者であるレイドル氏は、この論文で記載されている解剖学的知見に対して異論はなく、「イッカクの牙 は歯であって、歯は鋭敏なもの」だと述べている。
しかし、論文の著者たちの結論は飛躍していると彼女は指摘する。
「哺乳類では、メスは集団の成長に欠かせない重要な存在です。そのメスが、生存に役立ったり、餌を探すとき に有利になるような感覚器官を持たないなんて考えられません」。
◆謎に包まれた生態
3メートル近くになることもある長い牙を掲げているのは通常オスのイッカクのみで、メスは個体によって小 さい牙を生やしている場合がある程度だ。
クジャクの羽やシカの角に見られるように、動物のオスが自分の魅力を誇示することは珍しいことではない。 イッカクの角について、このような用途を提案した科学者で一番有名なのはチャールズ・ダーウィンだろう。
しかしイッカクはなかなか見つけることができず研究が困難なため、イッカクがその牙をどのように使ってい るのか、私たちが確実に知ることはないのかもしれないとレイドル氏は語っている。
PHOTOGRAPH BY FLIP NICKLIN/MINDEN PICTURES/CORBIS
論文の著者たちは、通常オスにしか見られないその牙には、海水の塩分濃度といった周囲の環境の変化を感知 する能力があり、イッカクがその極寒の生息地を移動するのに、またもしかすると餌を探すのにも役立っている のではないかと推論している。
しかしこの学説に関しては、大きく意見が割れている。海生哺乳類専門家の多くは、イッカクが周囲の環境を 感知する能力において牙がその中心的役割を担っているというアイディアを否定し、牙は交配相手を惹きつける ためのものである可能性が最も高いと主張している。
「The Anatomical Record」誌に掲載された今回の新しい研究の筆頭著者であるハーバード歯科医学校のマーテ ィン・ウィーア(Martin Nweeia)氏も、牙がクジャクの艶やかな羽のように、メスが交尾する気になるよう惹 きつけるものであることには同意している。しかし彼は、それが必ずしも他の用途を否定するものではないと言 う。
「感覚器官が複数の機能を持つことは、非常によくあること」だと彼は述べている。
◆鋭敏な牙
臨床歯科医であるウィーア氏は、イッカクの牙は解剖学的に見ると、周囲の環境を感知するのに極めて適して いるように思われると主張する。牙の外層には、至るところにチャネル(水の通り道)が散在し、海水が歯の内 部に入り込めるようになっている。
外層は象牙質と呼ばれる下層につながっていて、この象牙質にも細管が存在する。この細管はイッカクの牙の 最深部まで達する。最深部の歯髄は、血管と神経で満たされている。神経はイッカクの牙の基部から直接脳まで 走っている。
他の哺乳類、例えば人間の歯では、異状がない限り冷たい水など外部からの刺激が直接脳に伝わることはない とウィーア氏は説明する。
しかしイッカクでは、常に外界に対して敏感なのが普通なようだと彼は言う。
ウィーア氏が実施した生きたイッカクの研究では、水中の塩分濃度の変化を牙で感知できることが示唆されて いる。塩分濃度の変化とイッカクの心拍数が相関していたのだ。
しかし、ワシントン大学のクリスティン・レイドル(Kristin Laidre)氏は、この実験ではイッカクを捕獲後 すぐに心拍数を計測しているため、心拍数の変化はストレスを反映していて、必ずしも塩分濃度の変化に対する 反応ではないと指摘する。
生物学者であるレイドル氏は、この論文で記載されている解剖学的知見に対して異論はなく、「イッカクの牙 は歯であって、歯は鋭敏なもの」だと述べている。
しかし、論文の著者たちの結論は飛躍していると彼女は指摘する。
「哺乳類では、メスは集団の成長に欠かせない重要な存在です。そのメスが、生存に役立ったり、餌を探すとき に有利になるような感覚器官を持たないなんて考えられません」。
◆謎に包まれた生態
3メートル近くになることもある長い牙を掲げているのは通常オスのイッカクのみで、メスは個体によって小 さい牙を生やしている場合がある程度だ。
クジャクの羽やシカの角に見られるように、動物のオスが自分の魅力を誇示することは珍しいことではない。 イッカクの角について、このような用途を提案した科学者で一番有名なのはチャールズ・ダーウィンだろう。
しかしイッカクはなかなか見つけることができず研究が困難なため、イッカクがその牙をどのように使ってい るのか、私たちが確実に知ることはないのかもしれないとレイドル氏は語っている。
PHOTOGRAPH BY FLIP NICKLIN/MINDEN PICTURES/CORBIS