重力波観測で開く“多宇宙”への扉

2014.03.20
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1つの膜から複数の宇宙が誕生する様子を描いた想像図。これらはその後、時間とともに大きくなっていく。

ART BY MOONRUNNER DESIGN
 ビッグバン後に広がっていった重力波の存在は、我々の暮らす世界が多くの宇宙からなる「マルチバース(多宇宙)」であることを示しているという。 というのも、このほど初めて観測された重力波は、初期宇宙の“インフレーション”がとりわけ強力で、多く のものを生み出す現象だったことを示しているからだ。宇宙インフレーションとは、約138億2000万年前のビッ グバン直後、ほんの一瞬の間に、初期宇宙が我々の知る宇宙の何倍ものサイズに指数関数的に膨張したとする理 論だ。

「インフレーションが起こればマルチバースが生まれることを、ほとんどのモデルが示している」と、スタンフ ォード大学の物理学者で、宇宙インフレーション理論の提唱者の1人であるアンドレイ・リンデ(Andrei Linde)氏は述べる。南極にあるBICEP2望遠鏡を用いた天体物理学チームによる重力波の初観測は、米国時間3月 17日にハーバード・スミソニアン天体物理学センターにおいて発表され、リンデ氏も会場で発言した。

 BICEP2チームの観測結果が裏付けるモデルでは、宇宙の膨張プロセスはあまりに強力なため、1度では終わら ず、ビッグバンが始まると繰り返し、さまざまな形で起こる。

「マルチバースは、この宇宙で観測されている多くの特異な事柄に、1つの十分に考えられる説明を与える」 と、1980年に最初に宇宙インフレーション理論を提唱したマサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者アラ ン・グース(Alan Guth)氏は述べる。「例えば、生命が存在することなどに」。

◆無料のランチ

 グース氏は、ビッグバンとインフレーションによって誕生した宇宙を、無から有が生じる、ただで何かを得る ということで、“究極の無料ランチ”と表現している。

 一方、リンデ氏はそれどころか、宇宙は想像しうる限りの無料ランチを詰め込んだ“バイキング料理”だと考 えている。

 すなわち、ビッグバンの後には、我々の知る恒星や惑星に満ちた宇宙から、それよりはるかに多くの次元を有 する一方、原子や光子といったありきたりなものが存在しない奇抜な宇宙まで、ありとあらゆる種類の宇宙が誕 生したというわけだ。

“混沌とした”インフレーションから生まれたマルチバースにおいて、ビッグバンはほんの始まりにすぎず、そ こから数多くの宇宙が(我々の宇宙を含めて)誕生した。それらは互いに想像を絶するほどの距離で隔てられて いるが、マルチバースは一体どこまで広がっているのか? おそらくはどこまでも広がっていると、MITの物理学 者マックス・テグマーク(Max Tegmark)氏は「Scientific American」誌に書いている。

◆食い違いの謎

「マルチバース理論は好きだが、支持はしない」と話すグース氏だが、それでも、マルチバースが宇宙に関する 多くの説明のつかない事柄を説明できることは認めている。

 例えば、1998年に宇宙の銀河が加速して膨張しているように見えることが発見された。銀河は互いの重力で引 き合うため、理論上は膨張は減速するはずだ。2011年にノーベル物理学賞を受けたこの発見は、一般に“ダーク エネルギー(暗黒エネルギー)”の存在を示唆するものだと考えられている。ダークエネルギーは宇宙において 重力にさからうエネルギーで、その性質は謎に包まれている。

「我々の計算(したダークエネルギー)と実際の観測結果は、非常に大きく食い違っている」とグース氏は述べ る。量子論では、宇宙の真空において素粒子が生まれたり消えたりを繰り返しており、そのことから真空にはエ ネルギーが与えられているはずだと考えられているが、この真空のエネルギーの理論計算による値は、銀河の観 測結果から導き出される値より120桁も大きい。

 しかしマルチバースなら、この食い違いにも説明がつく。インフレーションによって誕生した多種多様な宇宙 の中で、我々の住む宇宙はたまたまダークエネルギーが比較的弱い、数少ない宇宙の1つなのかもしれない。

 マルチバースで説明がつく可能性のある謎はほかにもある。それは、“超弦”理論が予測する次元の数だ。超 弦理論は、素粒子は小さなエネルギーの弦であるとするものだが、この理論が成立するには、我々が実際に観測 している4次元ではなく、11次元が必要となる。これもまた、宇宙が我々の住む宇宙だけでなく、ありとあらゆ る宇宙が存在することを示しているのかもしれない。

◆生命と宇宙

 宇宙学者の目から見ると、我々の宇宙は不気味なほど生命に都合よく調整されている。電子を原子に結びつけ ている力の強さから、重力の相対的な弱さに至るまで、あらゆる物理定数が完璧に調和しなくては、惑星と太陽 も、生化学も、そして生命そのものも存在しえない。4つ以上の次元をもった宇宙では、原子は互いに結びつく ことができないと、グース氏は指摘する。

 もしも我々の宇宙が、ビッグバンによって誕生した唯一の宇宙なら、これらの生命に好都合な性質が存在する ことは、ほとんど奇跡のように思える。しかし、無数の宇宙が存在するマルチバースなら、生命に都合のよい宇 宙が偶然わずかに誕生していても不思議はなく、我々はたまたまその1つに住んでいるだけなのかもしれない。

ART BY MOONRUNNER DESIGN

文=Dan Vergano

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