それに加えて今度は、温暖化による新たな脅威までもが、この古代から生き残る爬虫類に迫ろうとしている。 気温の上昇で、ウミガメの個体群の性別の比率を狂わせてしまう可能性があるのだ。幼カメの性別は、卵が成長 する巣の中の温度によって決まり、温度が高いとメスが生まれる確率が高くなる。
◆進化の過程
カメは、一年のうちで、卵のオスとメスの比率が大体均等になる気温の時期に合わせて産卵するよう進化して きた。その比率が崩れてしまうと、どちらか片方の性が足りなくなって、個体群が激減してしまう。
インド洋南西のモザンビーク海峡に点在する無人島群で、その事態が深刻化しつつある。この海域には5種の ウミガメが生息するが、生物学者らは中でも最も広く分布しているアオウミガメに研究の対象を絞っている。
アオウミガメは、周辺の島々に最高5万個の巣からなる集団繁殖地を形成するが、緯度の高さによって産卵の 時期は異なる。ユローパ島など気温の低い南の島々では、産卵のピークは夏、マヨット島およびグロリオソ諸島 などの北部では冬の産卵が多い。
理論的には、温暖化が進めばユローパ島の産卵のピークは、健全な性別の均等を保つために寒い冬の時期に移 行すればいい。
しかし、マヨット島やグロリオソ諸島のカメたちは、既に一年のうち最も寒い時期に産卵してきたため、選択 の余地はない。これらの集団繁殖地では暖かい気温がメスの余剰、オスの不足につながり、個体群の均等が崩れ てしまう。
◆脅威は他にも
気候変動がウミガメへ及ぼす脅威は、性別の不均等だけではない。大気の温暖化で荒天候が増加し、高潮の危 険性が高まれば、カメの巣に海水が入って卵がやられてしまうこともある。また、巣を作る砂浜も破壊されてし まう。
世界中の海面上昇に伴い、ウミガメの産卵地も縮小していく。この先海面は数十センチ上昇すると見られてお り、それでなくても今現在既に、海岸沿いに広がる不動産開発のおかげで、産卵できる砂浜を探すのが難しくな っているのだ。
また、海水温が上昇し、海水の酸性度が高まれば、海草やその他のカメの餌となる生物の生長が妨げられる し、湿度が高くなれば卵が病気にかかりやすくなり、死亡率が上がる。
まだこうした潜在的影響が及ぼすものは明確ではないが、ひとつだけ確実なことがある。カメの生態はあらゆ る面において、陸上であろうと海中であろうと、環境状態に密接に関わっているということだ。急速に変わりゆ く環境に適応する能力こそが、その生存には欠かせないものとなってくる。
◆今できること
将来起こりうる未知の脅威にウミガメの個体群が適応できるように今人間ができることは、現存する既知の危 険性から保護することだ。最も脅威となっているのは、漁船の操業に巻き込まれて死亡するケースである。
レユニオン島のフランス国立海洋開発研究所では、アオウミガメの餌場から産卵場所までの回遊経路を特定す る研究が行われている。
この経路が漁場に近い場所を通る場合に、事故予防措置として、ウミガメがかからないよう改良した網を使 う、ライトを取り付けて網を光らせる、ウミガメ脱出装置を取り付けることなどが考えられる。特に沿岸刺し網 漁では、年間数千匹ものウミガメが網にかかって命を落としている。最も重要なのは、ウミガメの混獲を避ける ことの必要性を漁業者に知ってもらうことであると研究者らは指摘する。
PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK