「百聞は一見に如かず」を検証

2014.03.13
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1960年代の学生たちは、視覚教材もほとんど与えられずヘッドセットで言語を学習していた。これは決して良 い方法ではない。

PHOTOGRAPH BY B. ANTHONY STEWART, NATIONAL GEOGRAPHIC
 最新の研究によれば、われわれは耳で聞いたことよりも、見たり触れたりしたことをはるかによく覚えているという。同じものを見たとき、聞いたとき、触れたときの記憶を比較したアイオワ大学の研究によってこのような結論が導き出された。 心理学、神経科学の准教授エイミー・ポレンバ(Amy Poremba)氏と大学院生のジェイムズ・ビゲロー(James Bigelow)氏は、学生100人の協力を得て2つの関連した実験を行った。最初の実験ではまず、学生に音声を聞か せたり、画像を見せたり、ものを触らせたりした。そして、1~32秒の間隔を置いてさまざまな刺激を与え、見 たり、聞いたり、触ったりしたものと同じかどうかを質問した。2つ目の実験では、1時間後と1日後、1週間後 に、音声や画像、ものを思い出してもらった。その結果、どちらの実験でも、聴覚的な記憶を呼び起こすのに飛 び抜けて時間がかかった。触覚的、視覚的な記憶に差は見られなかった。思い出すまでの時間が長くなるほど、 聴覚的な記憶のみがどんどん後れを取っていった。

 ポレンバ氏は、「聴覚的な記憶は考えていたほどしっかりしていない」と話す。「われわれは感覚を総動員す るのが得意だと思っていた」が、実験の結果、触覚的、視覚的な記憶がはるかに優勢だとわかった。

 この実験結果はまた、脳は触覚的、視覚的な記憶を同じような方法で処理しているが、聴覚的な記憶は処理方 法が異なることを示唆している。人間の脳の進化を解明する試みに何らかの影響を及ぼす可能性があると、ビゲ ロー氏は述べている。サルやチンパンジーの聴覚的な記憶も触覚的、視覚的な記憶に後れを取っているためだ。

◆見て、感じる

 短期的には、今回の研究結果を教育や学習に生かすことができるかもしれない。コロンビア大学ティーチャー ズ・カレッジ人間発達学部のジョン・ブラック(John Black)氏は、「複数の感覚を用いた学習の重要性を裏付 ける研究結果であり、触覚が非常に重要な役割を果たし得ることを示唆している」と分析する。iPadのようなタ ブレットや電子教科書など、複数の感覚、情報が統合された現代の技術は、画面に触れ、指を動かして動画やボ イスオーバー、文章にアクセスしなければならないため、自然と複数の感覚に頼ることになる。「決して言葉の 重要性を軽視する研究結果ではないが、ほかの要素を忘れてはならないと強調している。すべての感覚が必要だ ということだ」。

 ニューヨークに拠点を置く学習障害の専門家ジャネット・ブレイン(Janet Brain)氏は、「学習や記憶を促 すには」あらゆる感覚を総動員する必要があることを思い出させてくれる研究結果だと評価する。そうした手法 はすでに「失読症の子供の指導では広く採用されている」という。

◆技術が助けになる

 ブレイン氏もブラック氏と同様、技術は複数の感覚を動員した学習に多くの可能性をもたらすと考えている。 双方向のコンピューターグラフィックスや動画はさまざまな感覚を必要とするため、「視覚的な刺激が大幅に強 化され、視覚的な記憶が向上する」とともに、集中力の持続時間が延びるかもしれないと、ブレイン氏は期待す る。つまり、素材と触れ合う方法が多様化するほど、記憶しやすくなるということだ。

 さらに、ブレイン氏は主に1つの感覚のみに頼った教育の実例として、かつて広く用いられていた外国語教育 の手法、オーディオリンガル(AL)法を挙げている。ブレイン氏によれば、この手法の成果が吉凶混合である理 由は、音声のみの空間をつくり上げる傾向があるためだという。生徒は何時間も録音を聞き、文章のドリルに取 り組む。聞こえてくる単語をものと結び付ければ、その単語やドリルの文章が意味を持つようになるかもしれな い。例えば、リンゴを意味するフランス語ポム(pomme)を覚えさせるとき、生徒にリンゴを配るといった方法 だ。しかし、こうした点は重視されていなかった。

 ポレンバ氏とビゲロー氏は結論として、「聞いたことは忘れる。見たことは思い出す」という中国の格言を引 き合いに出している。

 研究結果は、「PLOS ONE」誌オンライン版に2月26日付けで発表された。

PHOTOGRAPH BY B. ANTHONY STEWART, NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Diane Cole

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