南極の火山は氷河期の“ノアの方舟”?

2014.03.13
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南極の氷河の下には、火山の熱による水蒸気で写真のような大きな氷河洞窟が形成されることがある。

PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER, NATIONAL GEOGRAPHIC
 火山と言えば、恐ろしい破壊力を秘めているイメージが強いだろう。しかし最新の研究によって、氷河期には火山が動植物をかくまう生命の楽園の役割を果たしていた可能性が明らかになった。 氷河期が何度も繰り返される中で、生物多様性がいかにして維持されてきたかは、専門家の間でも長年の謎であった。

 このたび、オーストラリア国立大学のケリドウェン・フレイザー(Ceridwen Fraser)氏とオーストラリア南極局(AAD)のアレックス・テローズ(Aleks Terauds)氏が行った研究は、植物、菌類、ダニなどの無脊椎動物の南極における分布に関して、過去に収集されたデータを精査するものだ。

 研究チームは、最終氷期以降現在まで活動中であることが分かっている地熱地帯(そのほとんどは火山)との関係に注目して、動植物の数をマッピングした。すると生物種の数が最も多いのは地熱地帯とその周辺であることが分かった。このことは、火山が氷河期に生物種を保存する役割を果たしていたことを示している、と研究チームは主張する。

 特にコケ類などの植物では、地熱地帯から遠ざかるにつれて生物種の数が確実に減少していた。

 この生物種の数の減少が、単に現存種が火山地帯を好むというだけの話ではなく、歴史的傾向を反映したものであることを明確にするため、今回の研究では地熱地帯から100キロメートル以上離れた地域のみを「地熱地帯ではない」とみなしている。

「火山の熱はきわめて局所的で、1〜2キロ離れたらもう感じられないくらいのものだ。単に火山地帯を好む現存種との関連で生物多様性のパターンが生じているのなら、火山地帯に局所的に多数の生物種を確認できても、火山から離れるにつれて少しずつ数が減るということにはならないはずだ」とフレイザー氏は説明する。

 生物種の分布の変化の手がかりとして生物多様性のパターンを用いるのは、北半球に関する研究ではすでに確立された手法だとフレイザー氏は言う。しかし火山が動物を保護する役割を果たしたという仮説の検証に取り組んだのは、今回の研究が初めてである。研究では、いくつかの生物種については、大陸全体にまたがる大規模なデータセットを検証している。

 この仮説は地球上の他の地域や、歴史上の他の氷河期にも同様に当てはめられるとフレイザー氏は言う。

 ニュージーランド、ワイカト大学の生物学者イアン・ホッグ(Ian Hogg)氏は、「この仮説は、生命が南極大陸でいかにして何百万年も生き延びてきたかを説明する上で、少なくとも部分的には有効である」と電子メールでコメントしている。

◆南極は不毛地帯ではない

 南極大陸は不毛な氷の塊のように考えられがちだが、実際は何百種類もの生物種を宿している。地表が氷に覆われては生き延びられない場合の多い地衣類(菌類と藻類の共生生物)だけでも300種類もが生息している。

「(地熱地帯のような)安全地帯がなければ、南極大陸の生物種の多くはすでに絶滅していた可能性が高い」とフレイザー氏は言う。

 鳥類や海の生き物は、氷河期には比較的温暖な地域に移動することが可能だが、植物や菌類や無脊椎動物のほとんどは動けないため、直近の環境と運命を共にすることになる。そのため、気候に関する研究ではすぐれた指標となる。

 最新のマッピングデータからは、生物種は氷河期には地熱地帯の周辺に集中していて、暖かくなると再び生息域を他の地域にも広げていたことが分かる。

◆暖かな楽園

 南極大陸にはエレバス山をはじめ多数の火山が存在する。これらの火山の地下にはマグマ層があり、そのため火口付近の地表は温度が高くなっている。

 火口や噴気孔からは頻繁に火山ガスが噴出されるため、その周囲には氷の発達しない「噴気地」が生じる。また、氷河の地下に洞窟が生じることもある。

「氷河の下の洞窟の中は(中略)外気温に比べて摂氏数十度も温度が高い場合がある。露天の噴気地でも、比較的気温と湿度が高いため、コケなどの生物種の繁栄にはうってつけだ」とフレイザー氏は言う。

 南極大陸は地理的に孤立しており、さらに地表が氷で覆われていることから、他の生物種の混入が起こりにくく、今回の地熱に関する研究を行うには理想的な環境だったという。

 ペンギンやアザラシのように人目を引く存在ではないが、南極大陸の“ホットスポット”には、ダニやトビムシや線虫も数多く生息している。この大陸の「生物多様性の大部分は、これらのおかげだ」とフレイザー氏は言う。

 南極大陸の地熱地帯と生物多様性に関する今回の研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に3月10日付で発表された。

PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER, NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Stefan Sirucek

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