中高年の高タンパク食に癌リスク

2014.03.10
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中高年にとって高タンパク食は、喫煙と同程度の潜在的リスクがある。

PHOTOGRAPH BY ANDREW SCRIVANI, THE NEW YORK TIMES/REDUX
 高タンパク食を好む中高年(50~65歳)は、癌(がん)で死亡するリスクが4倍、死亡率も75%高まるという研究結果が発表された。 研究を率いた南カリフォルニア大学のバルター・ロンゴ(Valter Longo)氏は、高タンパク食のリスクは喫煙 と同程度と警告している。この衝撃的な研究結果の鍵は、インスリンと類似するアミノ酸分子、インスリン様成 長因子(IGF-1)が果たす役割だ。成長ホルモン(GH)の関連物質で、子どもの成長など加齢変化に影響が認め られている。

 ロンゴ氏がエクアドルの首都キトにある内分泌・代謝・生殖研究所(Institute of Endocrinology, Metabolism and Reproduction)のハイメ・ゲバラ・アギーレ(Jaime Guevara-Aguirre)氏らと共同執筆し、広 く報道された3年前の研究論文でも、同じ分子が主役だった。当時の研究対象は、エクアドル南部で孤立して暮 らすラロン症候群の患者たちだ。彼らは珍しい遺伝子異常によってIGF-1の正常な機能を阻害され、成長するた めの経路を断たれている。その結果、成人の身長が1メートル前後で止まってしまう。

 ただし、この病気には意外な副作用があった。ロンゴ氏らによれば、患者は癌と無縁で、肥満が多いにも関わ らず糖尿病にも罹患しないという。

 中高年に警告を発した最新の論文は、対象が高齢者になると別の展開を見せる。65歳以上は高タンパク食によ って死亡率が下がるという、正反対の可能性を示しているからだ。

 つまり、中高年には低タンパク食が好ましいが、高齢者には悪影響を及ぼすかもしれないという。

 研究結果の謎解きとIGF-1の役割について、ロンゴ氏に話を聞いた。

◆新しい論文には驚くべき主張がいくつもあります。まず最も意外と思われる内容から始めましょう。中高年期 の高タンパク食は、特に癌による死亡リスクを大幅に高めるという主張です。あなたは喫煙のリスクに例えてい ますね。高タンパク食と死亡リスクの関連性を説明してください。

 タンパク質の摂取量が多いほど、IGF-1の働きが高まります。あらゆる微量栄養素の組み合わせを調べた論文 もありましたが、最も長生きできるのはやはり低タンパク質、高炭水化物の組み合わせでした。

◆参考のため、高タンパク食と低タンパク食の定義を教えてください。

 高タンパク食は、摂取カロリーの20%以上をタンパク質が占めている状態です。普通は10~20%、10%以下が 低タンパクですね。

◆さらに、論文には“劇的な変化”という言葉が出てきます。好影響を及ぼす低タンパク食が悪影響に変わるタ ーニングポイントを意味します。この変化をどのように発見したのですか? またその年齢層と、原因をどのよ うにお考えですか?

 50歳以上を対象にした調査の分析結果からは何も見えてきませんでした。ところが、マウスの場合、若年や中 高年の個体を飢えさせても元気でしたが、年老いた個体は苦しみました。私はこの結果から、「少なくとも2つ の段階に分けることができるのではないか」と考え始めました。

 そこで、分析を行った疫学者に、「データを再分析し、(65歳を境に)2つのグループに分けてほしい」と依 頼しました。すると、案の定、「信じられない結果が出た」という報告が上がってきたのです。50歳以上を対象 にした最初の分析では、高齢者の影響が中高年の影響を相殺していたのですね。65歳を過ぎると、低タンパク食 が及ぼすリスクの方が大きくなってしまうようです。

◆あなたはマウスに高タンパク質、低タンパク質の食事を与えたり、遺伝子操作した酵母の寿命を延ばす補足的 な研究を行っていますね。IGF-1の役割を示唆する研究でした。癌と全体的な死亡率に関して、IGF-1はどのよう な役割を果たしていると思いますか? 現在の仮説を教えてください。

 動物と人間どちらの場合も、低タンパク食がIGF-1の値を下げることは周知の事実です。人間の場合、タンパ ク質が多いグループと最も少ないグループでは(IGF-1の値に)かなり大きな差があります。

 では、どのように癌と結び付くのでしょう? ラロン症候群の患者を調べた3年前の論文に答えがあります。人 間の細胞を患者の血液(基本的にIGF-1は含まれていない)にさらした後、細胞DNAに傷害を与えて前癌細胞に変 えようとすると、IGF-1が存在しないことによって細胞は2つの方法で守られます。まず、既に酵母で証明されて いるように、IGF-1を欠くためにDNAは損傷を受けません。次に、哺乳類の細胞はIGF-1が少ないほど、プログラ ムされた細胞死「アポトーシス」が起こりやすくなります。

◆この場面では、細胞の死は良いことなのですか?

 はい。細胞が癌細胞になろうとしているのですから。しかも、2重の防御効果です。まずDNA損傷の蓄積を阻止 し、たとえ損傷を受けてしまっても、(前癌)細胞ははるかに高い確率で死を迎えます。

 今回の論文ではそうした役割をかなり明確に示しています。タンパク質が少ない食事を与えた(マウスの)癌 は進行が緩やかになりました。今回の研究結果は、3月4日に「Cell Metabolism」誌に発表された。

PHOTOGRAPH BY ANDREW SCRIVANI, THE NEW YORK TIMES/REDUX

文=Stephen S. Hall

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