クリミア半島、“紛争膠着”化の恐れ

2014.03.05
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ウクライナ、クリミア半島のペレバルネ(Perevalne)村にある軍事基地を包囲するロシア軍兵士(3月2日)。

PHOTOGRAPH BY BULENT DORUK, ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES
 3月3日、ロシア軍がウクライナ南部のクリミア半島を掌握した。黒海に面するクリミア半島は両国にとって重要地域で、ロシアの黒海艦隊の拠点も置かれている。欧州連合(EU)への加入の是非を巡る政変後に発足したウクライナ暫定政府は、ロシアの横暴に断固抗議。旧ソ連時代の領地奪還を狙っていると非難している。「彼らは戦争を始めようとしている」と述べる、ウクライナのオレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行には、「今回の動きは、アブハジアでの紛争時とそっくりだ。当時もロシアは戦争を誘発し、自国への領地併合を画策した」と我慢ならないようだ。 トゥルチノフ大統領代行が言及した「領地併合」とは、ソチにほど近い黒海東岸のアブハジア共和国が、グルジアからの独立を目論んで武装蜂起した紛争を指す。攻め込んだグルジア軍は、独立を密かに支援したロシア軍に圧倒され、撤退を余儀なくされてしまう。国際NGOの国際危機グループの調査によると、長らく政情不安が続いていたアブハジアでは、戦場となった1992〜93年の間に死者が8000人、難民は24万人に上ったという。かつてグルジアが実効支配していた南オセチアも、同時期にロシアの支援を受けてグルジアに反旗を翻している。ソ連崩壊後、帰属が不透明な状態が続いていたが、やがてアブハジアと同様、グルジアがロシアに明け渡す結果となった。2008年、5日間の紛争の末に敗れたグルジア軍は、同地域を「ロシア軍占領地域」に指定、緊張状態が続いている。

 そして今度はウクライナの番がやってきた。ロシア政府関係者は国連安全保障理事会に対し、「反政府デモによって失脚したウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領は、“ウクライナは内戦勃発の危機に瀕しており、治安維持のためにロシア軍の支援を必要としている”と述べた」と報告。しかし、アメリカの元ウクライナ大使で、ブルッキングス研究所の研究員スティーブン・パイファー(Steven Pifer)氏は、「クリミア半島は事実上、ロシアが軍事占領している状態だ。今後の動きは、クレムリンの状況判断を待っているようだ」と話している。

 国際社会が憂慮するのは、歴史的にロシアの影響力が強いほかの地域でも混乱が巻き起こる危険性だ。この先、クリミア半島の軍事介入が武力闘争のきっかけとなり、ロシアの影響下にあるウクライナ東部(ドニエプル川以東)にも同様の事態を招きかねない。

◆新たな“紛争膠着”地域となる?

 また、紛争が沈静化したとしても、南オセチアやアブハジア、ナゴルノ・カラバフと同様に、クリミア半島が“紛争膠着”状態に陥る危険性も否定できない。地政学的問題がいつまでも残存する地域が、東欧にまた1つ増えることになる。近隣の主権国家が領有権を有する地域に軍隊を送り込み、恒久的に実効支配しようと目論むロシアの意図は誰の目にも明らかだ。

 政情不安や独立意識が高まった従属国に対し旧ソ連は、危機に陥った現地政府からの要請を盾に、間髪を入れず軍事介入を繰り返している。1956年のハンガリー動乱、1968年のプラハの春に伴うワルシャワ条約機構軍のチェコスロバキア侵攻、1979年のアフガニスタン紛争など枚挙に暇がない。ソ連が崩壊しロシア連邦が成立した後も、連邦離脱を目指したチェチェン共和国が軍事介入の洗礼を受けた(1994年)。泥沼化したチェチェン紛争は、ウラジーミル・プーチンの大統領就任後も収まらず、死者は16万人にも上ったとみられている。ロシアがチェチェンの支配権を取り戻し、内戦が終結したのは2009年の5月だった。

◆クリミア半島の歴史と地勢

 帝政ロシアの時代から、クリミア半島のロシア化が着々と進められてきた。革命後の1954年までソ連の1州に過ぎず、ソ連崩壊後も人口の59%を占めるロシア人の影響で軍の駐留を受け入れ続けてきたのである。一方、原住民のクリミア・タタール人は中央アジアに追放され、今では人口の20%に留まっている。

 地勢も重要だ。カーネギー・モスクワセンターの分析官マリア・リップマン(Maria Lipman)氏は、「半島には地理的な難題がいくつか潜んでいる」と語る。「例えば、半島の気候は非常に乾燥しており、真水を確保できる水源も皆無に等しい。ウクライナ本土と結ぶ細い陸地を介して、本土からの供給に頼るしかない。一方的な依存関係にあるが、半島東側では、ロシア本土とつなぐ橋の建設をロシアのメドベージェフ首相が計画中だ」。昔からの紛争地帯クリミア半島は、今もロシアと西側世界の狭間で揺らいでいる。

PHOTOGRAPH BY BULENT DORUK, ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

文=Eve Conant

  • このエントリーをはてなブックマークに追加