電子顕微鏡で見たピソウイルス。まだ生きていて、アメーバに感染できることがわかった。

Image courtesy Julia Bartoli and Chantal Abergel, IGS and CNRS-AMU
 シベリアの永久凍土の奥深くから、3万年以上手つかずのウイルスが見つかり、研究室で蘇生に成功した。大まかに「巨大ウイルス」と分類されるものの新種だと見られている。 フランスのエクス・マルセイユ大学に所属するジャン・ミシェル・クラブリー(Jean-Michel Claverie)氏と シャンタル・アベルジェル(Chantal Abergel)氏が率いる研究チームが、これまで知られていなかったウイル スを発見した。ウイルスはピソウイルス・シベリクム(Pithovirus sibericum)と命名された。

 シベリアで発掘されたということで、毛に覆われた凍ったマンモスの姿を想像するかもしれないが、そうでは ない。巨大とはいえ顕微鏡サイズだ。それでも、ウイルスの微小世界においては大きく、長さが1.5マイクロメ ートル、直径が0.5マイクロメートルある。これまで最大のウイルスだったパンドラウイルスは長さ1マイクロメ ートル、直径0.5マイクロメートル。これも同じくクラブリー氏とアベルジェル氏のチームの発見だった。

 両氏は電子メールで、「“巨大”ウイルスとは、通常の顕微鏡で見ることができるウイルスという緩やかな定 義だ」と説明してくれた。

◆複雑な巨大ウイルス

 巨大ウイルスは、遺伝子の複雑さの面でも他のウイルスを圧倒している。今回見つかったピソウイルスは約 500個の遺伝子を持つ。また、前述のパンドラウイルスには約2500個の遺伝子があるものもいる。

 ちなみに、HIVウイルスは遺伝子が約12個しかないという。ネブラスカ大学の植物病理学者ジェームズ・ファ ン・エッテン(James Van Etten)氏にコメントを求めたところ、そのように説明してくれた。同氏はウイルス の権威で、今回の研究論文の編集を担当した。

 見つかったピソウイルスは、古代の永久凍土に3万年以上閉じ込められていたにもかかわらず、まだ生きてい た。クラブリー氏とアベルジェル氏が研究室でアメーバと一緒にしたところ、すぐに感染したのだ。「アメーバ は、ウイルスを捕まえるための安全なおとりとして用いている。その後すぐに、動物や人間の細胞には感染でき ないことを確かめる」と、研究チームは強調している。

 巨大ウイルスは、通常のウイルスより大きいだけではない。頑丈でもある。発見されたウイルスは、この頑丈 さと好ましい環境が相まって、このように何千年も無傷でいることができたようだ。ウイルスは多くの場合、光 や生化学的分解などさまざまな要因によって、壊れたり動かなくなったりする。

◆複雑で多様なウイルス

 大きくて遺伝子が複雑なウイルスの発見は、この10年ほどルネサンスさながらの様相を呈している。ミミウイ ルス属、パンドラウイルス属、そして今回のピソウイルス属と、3つの明確なグループが見つかったことは、ウ イルスがこれまで考えられていたよりずっと複雑で多様であり、巨大ウイルスはとりわけ珍しいわけではない可 能性を示唆している。

 ウイルスの遺伝子構造と形態が多様であると判明したことを受け、ファン・エッテン氏は、タイプの違うウイ ルスは別々に進化したのかもしれないと推測している。

「すべてのウイルスに共通の起源があるという考え方は真実ではないのかもしれない」と同氏は話す。

◆気候変動でウイルス拡大?

 長く埋まっていたウイルスを掘り起こすことが可能なのだとすれば、地表に浮上してくるものが他にもあるの ではないか。気候変動や産業活動によって古い氷が振り混ぜられ、潜在的な病原体が表面に表われるかもしれな い。

 クラブリー氏とアベルジェル氏は、「採掘と掘削とはつまり(中略)こうした古い地層を例えば数百万年ぶり に掘り抜くということだ。 “生存可能”なウイルス粒子がそこにあれば、災難を招く格好の要因になる」と述 べている。

 一方、エモリー大学教授で微生物学者のエドワード・モカルスキー(Edward Mocarski)氏は、人間に対して 病原性のあるウイルスが氷から放出される危険性はとても小さいと話す。

 モカルスキー氏は電子メールで、「そのアイデアは素晴らしい映画にはなるかもしれない。しかし、いま出回 っていないウイルスで死んで氷詰めになった人間からウイルスがやってくるのでない限り、そのような可能性は 極めて低い」と説明した。

 ネブラスカ大学のファン・エッテン氏は、そのような状況は起こりそうにないが、条件がそろえば可能性はあ るということに同意した。

 そして、今回巨大ウイルスを発見したクラブリー氏とアベルジェル氏は、現実的にどうなるかはともかく、そ のようなシナリオはあり得ると考えている。ふたりの最新の研究が示すように、巨大なDNAをもつウイルスが、 非常に長期間にわたり感染力を保持しているかもしれない。

 ふたりは次のように述べる。「大昔に死に絶えたネアンデルタール人からウイルス感染するかもしれないとい う事実は、あるウイルスを地球から根絶できるという考えは明らかに間違いであり、安全に対する誤った認識を われわれもたらしていることを証明している。少なくとも、もしもの時に備えてワクチンの在庫は維持するべき だ」。

 両氏の研究は、今後こうした古いウイルスによる脅威の現実味の評価へと舵を切る。

「現在、こうした永久凍土層で見つかったDNAの分析を増やし、人間の病原体に似た遺伝子サインを探してい る」とクラブリー氏とアベルジェル氏。そのような病原体ウイルスを“蘇生させる”つもりなのではなく、潜在 的な危険性を突き止めたいのだと強調する。

「(人間の病原体が)見つかれば、危険性がより現実になる。見つからなければ、安全だということになる」。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に3月3日付けで発表された。

Image courtesy Julia Bartoli and Chantal Abergel, IGS and CNRS-AMU

文=Stefan Sirucek