飼育ミツバチでよく見られる病気が野生のマルハナバチに感染している。写真はアザミ花上のマルハナバチ、 米バーモント州にて。

PHOTOGRAPH BY TOBY TALBOT/AP
 ミツバチは近年、その謎の減少で同情を集めている。しかし最新の研究によると、ミツバチは最悪の病気を同じハナバチ類のマルハナバチに広めているという。「Nature」誌2月20日号でオンライン公開された研究で、ミツバチに感染する2種の病原体がマルハナバチの野生 集団に分類群を越えて広がっていることが明らかになった。

 ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校のマティアス・フュルスト(Matthias Furst)氏とイギリス、ドイツの 共同研究者らは、ミツバチによく見られ甚大な被害をもたらす2種の病気に着目した。一つは翅形態不全ウイル ス(DWV)で、特に吸血性のダニ(ミツバチヘギイタダニ)に寄生されている場合に、ミツバチの翅や腹部の形 態異常を引き起こすものだ。もう一つは真菌のノゼマ(学名:Nosema ceranae)で、腸管の炎症などを引き起こ す。両病原体は、北米とヨーロッパで起きているミツバチ群崩壊の主要因として知られている。

 研究者たちはまず、マルハナバチにウイルス、真菌の両病原体が感染するかどうかを実験で確認し、感染する ことが分かった。

 次に、グレートブリテン島とマン島の計26地点からマルハナバチを採集し、ミツバチで見られる感染が野生の マルハナバチにも及んでいるかどうか、また及んでいるなら感染率はどの程度であるかを調査した。

 その結果、調査したマルハナバチの約11パーセントがDWV陽性、7パーセントがノゼマ菌陽性であった。比較対 照のミツバチでは、約35パーセントがDWVに、約9パーセントが真菌に感染していた。これらの病原体は、宿主の ハチに実際にダメージを与えている。例えばこの研究では、DWVに感染したマルハナバチの寿命は、健康なマル ハナバチに比べたったの3分の1であった。

◆病原体は動き回る

 動物において感染症の問題が表面化すること自体は新しい事象ではないが、近年土地利用が急激に進み、降雨 パターンや地球の気温が変化していることで、致死性の病原体の感染が拡大し、特に新宿主への侵入が進んでい るようだ。

 例えば鳥インフルエンザは、自然界では特定の野鳥集団を寄主として存在しているが、そこからニワトリ、ア ヒル、七面鳥などの家禽へ、さらには家禽を通して人への感染も現在確認されている。しかし病気の拡大は、そ れとは逆に家畜から野生動物への方向で起こることも少なくない。

◆破壊的な10年間

 全ての家畜にとって同じことが言えるが、飼育ミツバチにとっても病気は常に解決しなければならない問題 だ。どんな動物でも自然とは異なる環境に置かれると、つまり狭い場所に何匹も押し込まれたり、何度も移動さ せられたり、化学物質にさらされたりということがあれば、病原体の感染しやすさは変化する。

 しかしこの10年で、世界のミツバチはかつてないほどの減少を見せている。大量死は、単一の原因では説明で きない。科学者たちは、ミツバチの免疫系に負担をかける複数の要因が複雑にからみ合ってこの事態を招いてい ると考えている。具体的には、寄生生物や殺虫剤、地域によっては飼料の質も問題と考えられる。つまり、何か 一つで解決できる問題ではないのだ。

 ミツバチにとって幸運だったのは、「コロニーが巨大なため、かなりの損傷があっても生き残ることが可能」 なことだと、メリーランド大学の昆虫学者デニス・ファンエンゲルスドープ(Dennis vanEngelsdorp)氏は述べ る。しかし他のハナバチも皆そんなにたくましいわけではない。「単独性のハナバチでは、1匹が死んだらそれ で終わりだ。そしてそれに続く下の世代も絶たれてしまう」。

◆トラクターがハチの羽音を消していく

 ミツバチや野生のマルハナバチのような送粉者が減少することで、農業に壊滅的な打撃を与えるおそれがある。世界の送粉者の「労働」は、年間2000億ドル(約20兆円)近くの価値があると推計されている。飼育ミツバチは、畜牛の餌となるアルファルファのような飼料のほか、果物やナッツ類など多くの経済的に最も重要な農作物の授粉を担っている。

 ミツバチほど研究はされていないものの、ミツバチに劣らず重要な花粉媒介性昆虫も存在し、野生のマルハナバチもこれに含まれる。こういった重要昆虫は動物媒植物の半数もの受粉に関与していると考えられ、ミツバチよりずっと授粉効率がよく、例えば果物の生産高や大きさを増加させる。

 DWVやノゼマが、地理的に離れた場所で多くの野生マルハナバチに感染していることが明らかになり、「送粉者の置かれた状況が緊急性を増している。ただちに良識をもって取り組む必要がある」とファンエンゲルスドープ氏は語る。「特に土地利用、農業政策に目を向けることが必要だ」。トウモロコシや大豆などの作物はハナバチにとって良くないので、多様な植物が自生する土地をそのような畑に開発しすぎてはいけない。植物多様性の 高い土地は、全送粉者に対して健康に良い栄養素を提供してくれるのだから。

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文=Jennifer S. Holland