踊る動物に音楽誕生の謎を探る

2014.02.24
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「Boogid Wonderland」に合わせて頭を振るアシカのロナン。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で飼育されている。

Image captured from video by Peter Cook/UCSC
 ネコをはじめ、踊る動物の動画をネット上で目にすることは多い。こういった動物は、本当に耳にした音楽に合わせてリズムをとっているのだろうか? それとも、誰かの命令に従って体を動かしているにすぎないのだろうか? これまでに存在したあらゆる人類文化が何らかの音楽を生み出している。そう話すのは、アメリカ科学振興協会(AAAS)の会合で発表を行った、マサチューセッツ州メドフォードにあるタフツ大学の認知神経科学者アニルド・パテル(Aniruddh Patel)氏。

 しかし、音楽に対する人間の強い好みがどの程度根深いものであるのかはまだわかっていない。単に音をまねる能力の延長であるとする説もあれば、チャールズ・ダーウィンが唱えたように、あらゆる動物の神経系は配線が似ており、その結果としてリズム感も共通であるとの見方もある。

 パテル氏は2009年、スノーボールと名付けられたキバタン(大型のオウム)がバックストリート・ボーイズの曲「Everybody」に合わせて踊る様子を撮影したビデオへのリンクを受け取った。

 同氏はスノーボールの飼い主に連絡し、このキバタンに実験を行う許可を得た。実験は、スノーボールがカメラに写っていない場所にいる人間をまねていただけなのか、本当にリズムをとっていたのかを調べるものだ。

 その結果、スノーボールはパテル氏が音楽を速めたり遅めたりするのに合わせて踊りを調節できることがわかった。この柔軟性こそ、ヒトのようにメロディーを追う能力の有無を知る鍵だとパテル氏は説明する。

 以来、柔軟性の程度こそ小さいが、ボノボやチンパンジーも同様の能力を持つことが明らかとなっている。カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)で飼育されているアシカは、アース・ウインド・アンド・ファイアーの「Boogid Wonderland」に合わせて上手に頭を振る。

 ヒトと動物におけるリズムや音楽の認知について、パテル氏に話を聞いた。

◆動物がリズムをとる能力はいつから研究されているのですか?

 生物学の世界では、特定の生物における同調行動に長い間関心が向けられてきました。

 しかし、音楽のリズムに対する動物の感受性や、ヒトのように聴覚的なリズムに極めて柔軟に同調できる能力、つまり音楽のリズムを抽出して体の動きを遅めたり速めたりできる能力について研究されるようになったのは、最近になってからです。

 こういった能力を持つヒト以外の生物に関する最初の論文は、私が2009年に発表したスノーボールに関するものでした。

◆同様の能力を持つ動物はほかにいますか?

 聴覚的なリズムに対する感受性やリズムに同調して動く能力があるだけでなく、それをヒトのように異なる広範囲のテンポでできるということになると、今のところはオウムとアシカのみです。アシカについては(UCSCの)ピーター・クック(Peter Cook)氏が明らかにしています。

 一部のゾウができることを示す映像もありますが、確実とは言えません。

◆ヒト以外の霊長類ではどうですか?

 日本人研究者の服部裕子氏(京都大学霊長類研究所)は、チンパンジーが自発的なテンポに近い一定のテンポ、つまり彼らが元々タッピングするのが好きなテンポでメトロノームに同調できることを示す論文を発表しています。しかし、テンポを遅めたり速めたりした場合の柔軟性は示されていません。

◆ヒトはリズムに同調する能力をいつ身につけるのですか?

 4~5歳くらいの子どもがリズムに同調できることがわかっています。もっと幼い子どももできますが、多くの場合その子が好むテンポ付近に限られます。

◆リズムに合わせて動くヒトの能力には脳のさまざまな領域が関与しているとのことですが、具体的にはどの部位ですか?

 リズムの認識には、脳の聴覚野と運動計画に関わる領域を含む広範囲のネットワークが関与していると考えられます。通常、運動計画に関わる領域は動きの計画に関与しますが、実際には動いてもいなければ動こうとしてもいないという点で興味深い。しかし、こういった領域がリズム構造の分析に何らかの役割を果たしていることは確かです。

 大脳基底核や小脳のような脳深部の構造は、タイミングに大きく関与しています。頭頂葉皮質の一部は、脳の異なる領域の統合やマッピングに重要な役割を果たすと考えられています。

 広範囲のネットワークが関与するということは、これが脳の限られた部位で起こる単純な機能ではないことを示しています。

◆動物では脳のどの部位が関与しているのかわかっていますか?

 今日も会場に来ているメキシコの神経生物学者ウーゴ・メルチャント(Hugo Merchant)氏は、リズムに合わせてタッピングをするサルの研究をしています。彼は実験で脳の各部位を測定していますが、関与している脳の領域はヒトとかなり異なるようです。

◆リズムをとる能力はオウム、アシカ、もしかするとゾウ、ボノボ、チンパンジーに見られるわけですね。適応度や進化における重要性という観点では何を意味するのでしょうか?

 リズムをとる能力は、音をまねる能力が何らかの形でもたらした結果なのではないかと考えています。ヒトは複雑な音をまねることのできる唯一の霊長類であり、それには脳の聴覚中枢と運動中枢との間の特殊な接続を要します。したがって、同様の接続が関わるリズムをとる能力は、音をまねる能力が土台となっているのではないかと思います。

 これが正しければ、この(リズムをとる)能力はある意味で進化の副産物であると言えるでしょう。

 別の能力の副産物である可能性もあります。また、ダーウィンの説が正しければ、この能力は脳機能の難解な側面の一つにすぎず、それを土台として音楽が生まれたとも考えられます。

 適応度という観点では、ヒトの社会的なつながりに何らかの役割を果たしていると考えられます。

◆次に実験が行われるとしたらどの動物が良いですか?

 それは間違いなく馬です。馬には発声の柔軟性がなく、そういった動物との血縁関係もないからです。

 一方で、(馬が)音楽のリズムに自発的に同調するという話を耳にしています。これは、(音をまねる能力が同調性の土台だとする)私の仮説に対する最終的な反論となる可能性があります。

Image captured from video by Peter Cook/UCSC

文=Jane J. Lee in Chicago

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