ゾウは取り乱した仲間を慰める

2014.02.19
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
アジアゾウ(写真)はストレスを受けると、お互いを撫で合う。

PHOTOGRAPH BY ZSSD, MINDEN PICTURES/CORBIS
 アジアゾウは類人猿、イヌ、カラス、そして私たち人間と同じように、群れの仲間が取り乱すと、それを認識し、優しく愛撫し、同情の声をかけるそうだ。 タイのカーンチャナブリー県にあるマヒドール大学の行動生態学者ジョシュア・プロトニク(Joshua Plotnik)氏と、米ジョージア州のエモリー大学リビング・リンク・センター所長を務める霊長類学者フランス・デ・ワール(Frans de Waal)氏は対照研究によって、ゾウを間近で見る人たちがずっとそうだろうと信じてきたあることを明らかにした。それはゾウが、この場合では人間の管理下にあるアジアゾウ(学名:Elephas maximus)が困惑するほかのゾウを見た時、人間が同情してかける気遣いのようなものをみせるということだ。

◆親しみを表す仕草

 2人の科学者は、タイのチェンマイ県メーテーン郡にあるエレファントネイチャーパークに住む様々な年齢のゾウ26頭を調査した。なお安全上の理由から、大人のオスのゾウは調査対象から除かれた。

 ゾウをストレスの多い環境に置くという実験は倫理に反するため、自然にストレスのかかる状況が発生するまで彼らは辛抱強く待った。

 ストレスの原因としては、犬が近くを通りかかる、ヘビが草むらを這ってカサカサ音を立てる、オスのゾウが咆哮する、もしくはただ近くにいるなどの状況が考えられる。また、何がストレスになっているのか分からない場合もある。いずれにせよ、科学者がゾウを見れば、ストレスを受けているかどうかはすぐ分かる。尾を立てる、耳を広げる、ラッパのような高い声、ゴロゴロした低い声、咆哮のような大きな鳴き声を上げる、さらに糞尿を漏らすといった状態は、ゾウが取り乱しているサインだ。

 年間を通じて、1カ月に最長2週間、一日あたり3時間を費やしてゾウの観察が行われた。

 この観察の中で科学者たちが目撃したのは、直接ストレスを受けたわけではなく近くで見ていたゾウが、取り乱すゾウに歩み寄って体を撫でる姿だった。愛撫は主に口の中(ゾウにとっての抱擁のようなもの)と性器に対して行われた。

 近くのゾウはまた、ゴロゴロした低い声やさえずるような高い声で安心させるように声をかけることもした。時には親身なゾウたちが、ショック状態にあるゾウを取り囲んで守ってやる行動も見られた。

 群れの仲間が取り乱した個体と同じような行動や感情の状態になる「感情の伝染」の証拠も見つかった。つまり、「友人」がショック状態にあるのを見ると、ほかのゾウたちもショックを受ける。そしてゾウたちはお互いを慰め合うのだ。

「ゾウたちは強い絆で結ばれているので、ほかのゾウに気遣いを見せても驚くべきことではない」とデ・ワール氏は説明する。共感は「哺乳類の一般的な特徴」なのだという。

「ゾウは仲間がショック状態にあるのを見ると自分自身もショックを受け、相手を落ち着かせようと手を差し伸べる。これはチンパンジーや人間が取り乱した相手を抱き締めるのとほとんど違いはない」。

 それでも、「ゾウが他者を慰める行動が、これほどまで私たちと同じだとは驚いた」とプロトニク氏は語る。彼は非営利団体シンク・エレファンツ・インターナショナル(Think Elephants International)の創立者でもある。

「ゾウが困惑の兆候を示すたびに、心強い友人が必ず慰めに来てくれる。ゾウが困っているのにほかのゾウが反応しないということはめったにない」。

◆共感するゾウ

 ゾウの群れはメスのリーダーのもと、ほとんどがメスと赤ちゃん、まだ若いオスで構成されていて、互いに思いやりを持ち、強い絆で結ばれていることが昔から知られてきた。

 彼らは新しい命の誕生を祝い、死者を悼む。メスは「仮母」として自分以外の赤ちゃんの子育てを助け、ほかの若い母ゾウの泣き声に素早く十分に対応する。

 ゾウはまた、怪我をした動物など弱者を助ける。これは他者の視点を理解し、共感する能力があることを示している。

 とはいえ、デ・ワール氏が指摘するように、「多くの人たちがゾウの知性に感心しているが、実際の確かなデータはまだ十分得られていない。霊長類やイヌ、カラスの研究と同様に、注意深く調べる必要がある」。

 平和を維持することは、集団で生きる全ての動物にとって間違いなく有益なことだ。だから他者と衝突したあとの「仲直り」は、誰にとっても理にかなった行動だ。しかし、近くで見ていた者が共感を示し、不安を抱く友人と同じ気持ちになるというのは、全く違うレベルの感情だ。

◆優しさへの道のり

 プロトニク氏が指摘するように、この研究が興味深いのは単に「人間以外の動物でもこんなことができる」という視点からだけではなく、これが収斂(しゅうれん)進化の素晴らしい実例でもあるからだ。収斂進化とは、よく似た形質や行動(今回の場合では共感や慰め)が独立に(霊長類とゾウのように異なる系統で)、類似した環境の進化圧の結果として生じるものだ。

「これはとてもワクワクする話だ。(例えば)シカの知性が私たち人間を超えないとも限らないのだから」とプロトニク氏は語る。

 さらに、「ゾウがどのように考え、決断を下し、世界をどのように見て聞いて匂いを感じているのかを私たちがもっと理解できるようになれば、保全の問題を軽減する方法を探るにあたって、よりよい視点を得ることができる」。

 当面は、ゾウが見せるこの思いやりがどのようにして、それを与える側と受け取る側双方にとっての利益をもたらすのかを正確に見極めるため、さらなる研究が必要だ。しかし、人間以外が持つ優しさへの道のりは、これまでにない長さに達しているようだ。

 今回の研究結果は、オンライン誌「PeerJ」に2月18日付で掲載された。

PHOTOGRAPH BY ZSSD, MINDEN PICTURES/CORBIS

文=Jennifer S. Holland

  • このエントリーをはてなブックマークに追加