低身長の心理、仮想実験で調査

2014.02.19
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
背が高いほうが社会的に好まれる傾向にあるが、それはなぜだろう?

PHOTOGRAPH BY BETTMAN/CORBIS
 背の高い人に対して「見上げる、仰ぎ見る」というが、同じ言葉が尊敬の意味を含むこともあるように、高い身長に肯定的な価値観を連想させる言葉がある。また、身長と収入の高さを関連付ける研究報告も数多く存在する。 ここで紹介する研究は逆に、仮想現実を用いて背が低い人の心理を理解しようという試みである。2013年12月に「ScienceDirect」誌に発表されたのは、オックスフォード大学で行われた実験で、被験者はまず自分と同じ身長のアバター(仮想現実内での自己の分身)になって地下鉄に乗るという仮想体験をする。次に、身長が25センチ低くなったアバターで同じルートをたどる。

 実験に参加した60人の女性は全員、過去に精神障害などの病歴はないが、最近その疑いを抱いたことがあったと報告している。被験者は頭に装置を取り付け、画面を見ながら、ロンドンの地下鉄を再現した3Dの仮想現実世界をそれぞれ2回ずつ旅した。その途中で、他の仮想乗客たちと目を合わせたり、逆に目をそらせたりというようなやり取りも交わされた。

 駅と駅の間を移動する仮想電車の旅は約6分間で、2回とも同じ映像が流れるようプログラムされているが、ひとつだけ違う点がある。2回目の旅では、被験者のアバターの身長が25センチ低くなっているのだ。オックスフォード大学の臨床心理学者で、実験の責任者であるダニエル・フリーマン(Daniel Freeman)氏いわく、「頭ひとつ分ほどの違い」だ。

 実験の結果、背が低くなった時の被験者は、気が弱くなって自分に否定的な感情を持ち、被害妄想的になったと報告した。「実験に使われた映像には、不信感を抱かせるような要素がないように作られていた」とフリーマン氏は話すが、それでも被験者たちはいつもよりも頭ひとつ分低くなった目線から世の中を眺めると「周囲の人間が自分に敵意を抱き、孤立させようとしていると感じて」しまったという。

◆低身長と自信のなさ

 背が低い人がいつも不信感と被害妄想を抱いているわけではないとフリーマン氏は断っているが、実験の結果は、身長に関する世間一般的な理解を裏付けるものとなった。「背が高いと、社会的地位も高いのではという印象を与えるようです」。そして高身長の方が、社会的に好ましいとみなされる傾向にあるというのだ。

「つまり、背が高い人は社会生活の場でも自信にあふれています。誰でも感じたことがあるでしょうが、自分に自信をなくしてしまうと、人は肩をすぼめて小さく縮こまってしまうものです。逆に自信を抱くと、背が高くなったように感じ、態度も堂々としたものになります」。

 ある被験者は次のようにコメントしている。「2度目の実験では自分の背が縮んだことに気づきました。周囲の人間や、スーツケースまでもが高く見えました。自分が子どもに戻ったような気がして苛立ちを覚え、大人でない自分がその場にいることにいたたまれない気分にさせられました」。言い換えれば、背が低くなったことで、まだ成人の高さまで成長していない小さな子どもの弱者的感情を疑似体験していたのだ。

 小さな子どもが背の高い大人に対して抱く感情を想像してみると、さほど驚くほどの結果ではないだろうと、デンバーの臨床心理学者であるスーザン・ハイトラー(Susan Heitler)氏は言う。同じ背の高さの人間が2人いれば、文字通り目と目を合わせて向かい合うことができるが、片方が30センチ高ければ(例えば、1人が身長180センチでもう1人が150センチの場合)、1人が相手を見上げ、もう1人は見下ろさなければならない。

 そうした不均衡な視線が、背の高さと権力の相関性につながってくる。全てそうだとは言い切れないとしながらも、ハイトラー氏がうつ病の患者に目を閉じて自分の今おかれている状況について考えるよう促すと、たいていの場合患者は、自分を苦しめている誰か自分よりも大きな存在の人間と比較して、自分はとても小さなものであると感じてしまう傾向にあるという。

◆背が高いほうが獲物を捕らえやすい?

 それでは、私たちの脳はなぜ、どのようにしてこうした見方をするようになったのだろうか。

 身長に関する固定観念について研究していたミシガン州立大学の心理学教授リンダ・A・ジャクソン(Linda A. Jackson)氏は、進化論的見地から、「背が高い方が好ましい」という考え方は狩猟社会だった頃にさかのぼるとしている。ジャクソン氏によると、背が高ければ獲物を捕らえやすく、敵を回避して、生殖的優位に立ち、背の高い親とその子どもたちの生存の可能性を高めてきたのだという。

 現代社会は狩猟採集時代とは大きく様変わりしたものの、背の高さが、人を見る際にわずかながらもある程度の影響を与えていることに変わりはない。特に男性にその影響が顕著である。

 ジャクソン氏は、「背が高い男性は、平均的かそれ以下の身長の男性に比べて、地位が高く指導力もあり、また仕事でも成功していると見られやすい」と述べている。さらに平均的かそれ以下の身長の男性は、個人適応力、運動能力、男らしさなどといった社会的魅力の側面でも損をしている。

 女性の場合、この固定観念が同じように働いているとの証拠は少ないものの、ジャクソン氏によると背の低い女性もやはり職場で難しい場面に遭遇することもあるという。「身長142センチの女性上司がまともに取り合ってもらうためには、より多く働かなければならないケースもあるでしょう」。

 ノートルダム大学の経営学教授で、身長の所得への影響についても研究しているティモシー・ジャッジ(Timothy Judge)氏は、身長と職業上・個人的成功を関連付ける研究は、「外見をとても重視する現代の文化を映し出している」と述べる。さらに、「視覚とテクノロジーの重要性が高まるにつれ、外見重視の判断に歯止めが効かなくなるのはないか」と懸念を示す。また一方で、コンピューター(インターネット)を通してしか知らない人については、おそらく身長はそれほど重要ではないだろうとも話している。

PHOTOGRAPH BY BETTMAN/CORBIS

文=Diane Cole

  • このエントリーをはてなブックマークに追加