この新種の甲虫に関する研究を主導し、命名も行ったテネシー大学チャタヌーガ校の昆虫学者、スティリアノス・チャツィマノリス(Stylianos Chatzimanolis)氏は、「ダーウィンには、甲虫に関する名高い発言がある」と語っている。ダーウィンは「『希少な甲虫を捕獲したとの知らせを耳にすると、ラッパの音を聞いた年老いた軍馬のようにハッとする』と述べていた。ダーウィニルス・セダリシも、間違いなくダーウィンをハッとさせる発見だったろう」という。
チャツィマノリス氏は加えて、この甲虫の命名の際にセダリス氏の名前を一部用いた理由について、「同氏の自然界への強い関心を称えたものだ」と説明している。
ダーウィンがこの甲虫を見つけたのは有名なビーグル号航海の途中の1832年、アルゼンチンの海沿いの街、バイアブランカでのことだった。
「ダーウィンはハネカクシの多様性に魅せられていた」と、チャツィマノリス氏は指摘する。
しかし、こうして集められた標本の中には、ダーウィン自身が詳しい調査に手をつけないままに終わったものもあった。チャツィマノリス氏は今回、ロンドン自然史博物館から貸し出された標本を精査したところ、甲虫のうち1体の触角が既存の種とは異なり、のこぎりの歯のような形状をしていることに気づいた。
さらなる慎重な調査の結果、この昆虫が新種であるだけでなく、ダーウィン自身が発見したものだったことが明らかになった。
「この標本を扱っている時には、畏怖の念と強烈な恐怖感を覚えた。そのため、この標本に触れる時間を最小限に抑えるようにしていた」と、チャツィマノリス氏はブログに記している。
同氏はさらに声明の中で、「新種の発見は、常に胸躍る出来事だ。さらにダーウィンが採取した標本から新種を見つけられるとは、まさに驚きだ」と語っている。
◆謎の多い甲虫、ハネカクシ
ダーウィニルス・セダリシは、およそ5万8000種が知られているハネカクシの仲間に新たに加わった新種だ。チャツィマノリス氏によると、この種の数は「世界中に存在する哺乳類と比べても10倍以上にのぼるが、ハネカクシについて知られていることはとても少ない」という。
チャツィマノリス氏は同種の標本がほかにもないかと、北米とヨーロッパの博物館を探したが、見つかったのはもう1体だけだった。こちらも同じくアルゼンチンのリオ・クアルトで1935年より前に採取された個体で、ドイツのベルリンにあるフンボルト博物館に収蔵されていた。
標本が2体しか見つかっていないのは奇妙なことだが、同氏はこの甲虫がアリをはじめとする他の昆虫の巣穴に隠れて暮らしており、捕獲が難しかったという理由が考えられるとしている。しかしこの種のアルゼンチンでの生息圏は今ではほとんどが農地になっており、環境の変化による個体数の激減が理由という可能性も高い。
「今回見つかった新種が既に絶滅していないことを祈るばかりだ」と、チャツィマノリス氏は述べている。
今回の研究は、「ZooKeys」誌に2月12日付で発表された。
PHOTOGRAPH BY NATURAL HISTORY MUSEUM, LONDON