19世紀の聖書で使われているイラスト。ラクダに乗ってカナンの地へ向かうアブラハムが描かれている。

ILLUSTRATION BY KEN WELSH, DESIGN PICS/CORBIS
 イスラエル、テルアビブ大学の2名の考古学者が発表した最新の研究結果によると、地中海東岸部では、ラクダが最初に家畜化された時期は紀元前10世紀ごろまで遡ることがわかったという。旧約聖書に記述された推定時期より数世紀遅いことになる。 聖書が編纂された年代についてはさまざまな説があるが、今回の調査によると、通説よりもかなり後という可能性が高いという。以前から歴史的資料としての信憑性に乏しいという研究結果が発表されていた旧約聖書だが、それを改めて裏付ける結果となった。

 今回の研究では、イスラエル南部、アラバ渓谷の銅精錬所でラクダが家畜化されていたという記述に言及している。

 聖書には、ヒトコブラクダが47回登場する。また、ユダヤ人の始祖アブラハム、ヨセフ、ヤコブといった人々が登場する物語には、家畜のラクダに関する記述がある。例えば創世記24章11節は、「彼はラクダを町の外の、水の井戸のそばに伏させた。時は夕暮で、女たちが水をくみに出る時刻であった」となっている。

 専門家はその時期について、創世記の内容や、シュメール人の都市ウル(現在のイラク)の遺跡で見つかった考古学的情報、または都市国家マリ(現在のシリア)の遺跡で出土した粘土板の記録などに基づいて、紀元前2000〜1500年の出来事と判断している。

 しかし、研究を主導したイスラエルの考古学者エレズ・ベン・ヨセフ(Erez Ben-Yosef)氏とリダー・サピル・ヘン(Lidar Sapir-Hen)氏は、放射性炭素年代測定法と発掘物の調査から、この地域(地中海東側の沿岸国)でラクダが家畜化された正確な年代を特定。聖書の記述は、想定よりさらに後の時期に書かれたという事実を突き止めた。

 ベン・ヨセフ氏は、「アラバ渓谷の銅精錬所跡で見つかった考古学的な証拠から、家畜化された時期を世紀単位ではなく数十年単位の精度で特定した」と、テルアビブ大学が先週発表した声明で述べている。

 サピル・ヘン氏は、「紀元前930〜900年の30年に絞ることができた」と語る。

◆銅とラクダの関係

 アラバ渓谷は、死海から紅海のアカバ湾まで伸び、イスラエルとヨルダンの国境を成す。紀元前14世紀〜9世紀後期ごろまで、同地域では銅の精錬が盛んだった。

 研究チームは、渓谷の遺跡で見つかる動物の遺骸に興味深い傾向があることを発見。大量のラクダの骨が、ほぼすべて紀元前930〜900年代のものだったのだ。

 紀元前925年、古代エジプト王シェションク1世が同地域を侵略した時期とも重なっている。

 研究チームは現在、この史実とラクダの関係性について調査中だ。エジプトがユダ王国とイスラエル王国を征服した後、銅精錬事業を再編、その過程でそれまで利用されていたロバやラバよりも効率的な輸送手段として、ラクダが導入された可能性がある。

 地中海東側の地域では、ラクダの家畜化によって経済的、社会的に大きな変化が訪れたはずだ。活動範囲も、広大な砂漠地帯を越えてかつてないほどに広がったとみられる。

 アラバ渓谷の発掘現場からは、新石器時代(紀元前9700年ごろ)の骨もみつかっている。しかし野生種と推定されており、銅の塊を背負っていた痕跡はないという。

 今回の研究結果は、「Tel Aviv: Journal of the Institute of Archaeology of Tel Aviv University」誌で昨年末に発表されている。

ILLUSTRATION BY KEN WELSH, DESIGN PICS/CORBIS

文=Mairav Zonszein