◆ヒョウ
今年の冬季オリンピック準備期間中のある時期に、ソチ大会を盛り上げるマスコットがユキヒョウから普通の 褐色のヒョウに変わった。この変更は広く受け入れられているようだ。というのもロシアは歴史的に、ペルシャ ヒョウ(学名:Panthera pardus saxicolor)など複数のヒョウにとっての故郷だからだ。ペルシャヒョウはソ チ周辺の西コーカサスにかつて生息していたヒョウで、最近ウラジーミル・プーチン大統領は、この地域にペル シャヒョウを復活させることを約束した。
しかし、冬に一番ふさわしい大型ネコ科動物はユキヒョウ(学名:Panthera uncia)だろう。ユキヒョウはソ チよりずっと東、中央アジアの山岳地帯に生息する。シラキュースにあるニューヨーク州立大学の保全生物学者 ジェームズ・ギブズ(James Gibbs)氏によると、近頃ではおよそ2000~6000頭のユキヒョウが生存すると考え られ、その大部分は中国とモンゴルに生息する。ギブズ氏の推計では、ロシア国内に野生で生息するユキヒョウ はたった20~40頭だという。ただし、ユキヒョウは非常に見つけるのが困難な上、かなりの長距離を歩き回るの で、この推計はおおよそのものだ。
ユキヒョウはロシアで公式に保護されており、狩猟は法律で禁じられている。しかし密猟者は罠をかけ続け、 ユキヒョウの個体数に壊滅的な影響を与えている。
またユキヒョウは、餌の供給減にも直面している。主な餌はアイベックスというヤギの仲間だが、アイベック スは家畜に住処を奪われると同時に密猟者の犠牲にもなっていると、ギブズ氏は加えて指摘する。
◆ノウサギ
一般の認識とは異なり、ノウサギと(アナウサギなどの)普通のウサギは近縁だが別物だ。ノウサギの方が通 常体が大きく、耳や後脚も長い。ロシアには数種のノウサギが生息する。ホッキョクウサギ(学名:Lepus arcticus)もその内の一種だが、ロシアより北米で普通に見られる種だ。
ユキウサギ(学名:Lepus timidus)は、スカンジナビアの国境からシベリアの最果てに至るまでロシア全域 に分布し、海抜数千メートルの標高にも生息する。一年の内の多くは茶色の毛をしているが、冬の数ヶ月間はユ キウサギの毛は白く生え変わり、ホッキョクウサギとそっくりになる。一時期は、ユキウサギとホッキョクウサ ギは同種だと思われていたほどだ。
ほかの2つのマスコットほど筋骨隆々ではないが、ノウサギは足が速く、時速60キロものスピードで移動する ことができる。さらに生物種としても繁栄を極めていて、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも現在、 個体数が十分多い「軽度懸念」にリストされている。マスコットとノウサギのファンにとっては良いニュース だ。
◆ホッキョクグマ
もしレスリングが冬の競技だったら、ホッキョクグマは有力なメダル候補だろう。体の大きさや強さでホッキ ョクグマ(Ursus maritimus)と張り合える動物は、世界でもわずかだ。大人のオスでは体重が700キロ近くにも なる。
ホッキョクグマの生息域は、北極圏にほぼ限られている。通常はアザラシを餌とするが、魚やトナカイ、雁 (ガン)に至るまであらゆる動物を狩ることが知られている。北極圏環境に特異的に適応しているため、ホッキ ョクグマは気候変動には特に敏感だ。そのため気候変動が与える影響を示す重要なシンボルになっていると、ニ ューヨーク市内にあるアメリカ自然史博物館のホッキョクグマ研究者リンダ・ゴーメザーノ(Linda Gormezano)氏は語る。
IUCNはホッキョクグマを「絶滅危惧II類(危急)」に指定している。II類とは言っても、中には特に絶滅の危 険性が高い地域集団も存在する。ユキヒョウの場合と同じように、ロシア国内のホッキョクグマは法律で保護さ れているにもかかわらず、違法な密猟が生息環境の変化と同様に彼らを脅かしている。
Photographs by B. Streeter Lecka, GETTY; (snow leopard) Steve Winter, National Geographic; (arctic hare) Peter Caims, Foto Natura, Minden Pictures/Corbis; (polar bear) Paul Souders, Corbis