特にその影響は、皮膚や毛髪の遺伝情報が絡んだ領域などに出やすい。ネアンデルタール人の遺伝子に何らかのメリットがあったからこそ、世代を超えて受け継がれてきたと考えられる。
「アフリカを出た現生人類がネアンデルタール人と出会い、交雑したときに、新天地の気候条件に合った遺伝情報を選択的に取り込んだのだろう」と、「Science」誌の論文の責任者で、アメリカ、のワシントン大学に所属するジョシュア・エイキー(Joshua Akey)氏は話す。
逆に、影響がまったく見られない領域では、旧人の遺伝子が何らかの問題を起こしたため、自然選択により排除されたと推測できる。
「Nature」誌に論文を発表したハーバード・メディカルスクールのスリラム・サンカララマン(Sriram Sankararaman)氏とデイビッド・ライシュ(David Reich)氏は、解読済みのネアンデルタール人のゲノム配列を基準に現代人1004人分のゲノムを精査、交雑の結果による特徴的な配列がないか調査した。
例えば、ネアンデルタール人と非アフリカ系現代人共通のDNA断片が、アフリカ人やその他の霊長類で見つからない場合、その遺伝情報はネアンデルタール人の遺産と判断できる。また、現生人類に比較的最近取り込まれたゲノムは、細かく分断されずに大きなまとまりとして残っているはずだ。
ワシントン大学のエイキー氏とベンジャミン・バーノット(Benjamin Vernot)氏も、同様の統計的特徴を利用して現代人665人のゲノムを調査。当初は解読済みの配列を参照せずに実施したにも関わらず、合計でネアンデルタール人の全ゲノムの20%に相当する断片を特定している。
◆皮膚、毛髪、病気に影響が残る
2つのチームの調査方法は異なるが、結果に大きな違いはない。結論として、皮膚や毛髪、爪を形成するタンパク質「ケラチン」の生成には、ネアンデルタール人の遺伝情報が大きく関与しているという。
例えば、皮膚関連の遺伝子「POU2F3」は東アジア人の約66%で、体色と関係が強い遺伝子「BNC2」はヨーロッパ人の70%で見つかっている。
われわれの祖先が新天地の環境に適応できたのは、既に適応を果たしていたネアンデルタール人の遺伝子のおかげかもしれない。「彼らは数百年、もしくは数千年前からユーラシアで暮らしていた。たどり着いた祖先が素早く適応できた背景には、交雑による遺伝情報の継承があったと思う」とサンカララマン氏は指摘する。
同氏は、エリテマトーデス、胆汁性肝硬変、クローン病、2型糖尿病などの発症に関連するDNAも発見したが、その影響力はまだ確認できていない。
今回の2つの研究では、非アフリカ系現代人のゲノム配列に、ネアンデルタール人の影響がまったく見られない領域があることも確認された。この大きな空白地帯には、協調運動に関与し、言語活動で重要な役割を果たす「FOXP2」などの遺伝子が配置されている。
この「空白地帯」はX染色体で特に大きく、睾丸で活性化する遺伝子が含まれている。この事実からネアンデルタール人の一部の遺伝子は、交雑時に不妊を引き起こす原因となったため、いつの間にか消滅した可能性も出てきた。ただし、数百世代という長い期間での話で、交雑の結果産まれた男子すべてに影響が出たわけではないという。
今回の研究結果は、「Nature」誌と「Science」誌のオンライン版に1月29日付けで発表された。
Photograph Joe McNally, National Geographic