脳機能の老化は知識量の増大も要因

2014.01.29
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記憶力のテストでは、高齢者ほど何かを思い出すのが遅くなる。しかし、脳の働きが衰えたからではなく、知識量が増えて情報の検索に時間がかかっているためだという。

PHOTOGRAPH BY MARGHERITA VITAGLIANO, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT
 数年前、ドイツ、エバーハルト・カール大学テュービンゲンの言語学研究者ミヒャエル・ラムスカー(Michael Ramscar)氏は、人間は45歳前後から認知能力が低下しはじめるという論文を目にした。しかし、当時既にその年齢に達していたラムスカー氏には、自分の脳が衰えている自覚がまったくない。「45歳で区切るなんて納得できない。知的好奇心を刺激してくれる人を大勢知っているが、100人中99人は私より年を取っている」。 論文では人々が単語を思い出す速度を測定していたが、各被験者が記憶している単語の量が考慮されていないと同氏は感じた。

 以前から記憶力に関するほとんどの研究に欠陥を指摘しており、今回も同じ轍を踏んでいるというのだ。アルツハイマー病などの認知症で記憶力に障害が生じているようなケースは別だが健常な脳は、年を重ねて知識が増えていくほど処理する情報量も膨大化が進む。その結果、必要な情報を思い出す(想起)時間が長くなるのは当然だと同氏は主張する。

 記憶力テストの大部分は、何かを覚えさせ(記銘)思い出させる(想起)内容で、例えば20歳と70歳の被験者を比較する方式を採用している。しかし、各被験者の脳に既に保持されている知識量は考慮されていない。そこでラムスカー氏は、コンピューター・モデルで若者と老人の脳を再現し、両者に情報を詰め込んだ。ここで重要なのは、老人のモデルに追加する情報量を多くしたという点だ。

「健常な老人の脳には、衰えを示す証拠はほとんど確認できなかった。処理速度の低下や若干の物忘れの傾向が見られたがそれも予想通り。情報量が増えるほど検索対象が広くなり、時間をかけてより多くの情報を吟味するようになるからだ」。

◆知識の増加と処理速度の低下

 テキサス大学ダラス校の脳寿命研究所(Center for Vital Longevity)の共同責任者として、加齢と脳の変化 の関連性を研究しているデニス・パーク(Denise Park)氏は、「年齢と、知識・経験は比例する関係にある。疑いの余地はない」と同意する。「脳に保持された情報量が増えるほど語彙が豊富になり、世界に対する理解が深まっていく。若者の知識だけでは世の中の動きについていけない」。

 ただし、同氏はラムスカー氏の研究の意義は認めているが、人間のほかの部位と同様、脳にも加齢とともに衰えていく面があることも間違いないと考えている。

 脳の処理速度が低下するのは、情報量の増加だけが原因ではない。画像診断を利用した研究では、健常な脳でも、加齢とともに学習や判断力、記憶力に関わる領域が縮小していくことがわかっている。衰えた脳は、情報量の増加でそれを補っているとも言える。

 つまり、いくつかの要因が同時に絡み合っていると言えそうだ。脳は図書館のように知識を蓄えていくが、手足が衰えるように処理速度が低下する。

「加齢で日常の脳の働きが悪化するということはないので安心して欲しい。年を取ると情報を想起する速度は落ちていくが、その一方で、取り出せる知識の量は増えていく。帳尻はあっているはずだ」とパーク氏は述べている。

 今回の研究結果は、オンライン・ジャーナル「Topics in Cognitive Science」誌に1月13日付けで掲載された。

PHOTOGRAPH BY MARGHERITA VITAGLIANO, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT

文=Susan Brink

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