グランドキャニオンのヘイデン山を朝日が照らす。

PHOTOGRAPH BY ERIK HARRISON, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT
 グランドキャニオンのことを、地面にぽっかり巨大な穴が空いただけのものと思っている人も多いのではないか。だが専門家によると、アメリカ南西部のこの有名な大峡谷は、年代の異なる複数の峡谷が、約600万年前に侵食作用によって1つになり、その後現在の地形へと形成されていったとする見方が有力視されているのだという。 グランドキャニオンでは100年以上にわたってフィールドワークが続けられてきた。最近の研究によって、恐竜の時代に始まったと見られる地形変化の物語を読み解く新たな手がかりがもたらされた。

 グランドキャニオンがいつどのように形成されたかについては、150年近く議論が続いていると、ニューメキシコ大学の地質学者カール・カールストルム(Karl Karlstrom)氏は言う。ここ数十年の議論はおおむね2派に分かれる。過去500万年程度の間に、コロラド川単独の侵食作用によって現在の地形が形成されたとする「若いグランドキャニオン」派と、もっと早くから、現存しない複数の川が、ほぼ同じルートを通ってこの峡谷を掘り進めてきたとする「老いたグランドキャニオン」派である。カールストルム氏らのチームがこのほど発表した研究は、この両派を折衷したような説を打ち出している。

 過去に侵食がどれだけ進んだかを推定するためにチームが採用したのは、年代による岩石の温度変化を推定する熱年代学の手法である。地表から内部へ向かうほど温度は上がるので、岩石の温度の変遷が分かれば、その地形がいつどれだけの速さで侵食されたかを知る手がかりになるのだ。

◆岩石の分析

 グランドキャニオンは主に5つに区分されている。カールストルム氏らの研究では、このうち4区分について、標高の最も高い地点と低い地点から岩石サンプルを採取し、さまざまな手法で分析を行った。

 そのうち1つはフィッショントラック法と呼ばれる放射年代測定法だ。燐灰石(アパタイト)結晶に含まれるウラン238が放射性崩壊を起こすと、アルファ粒子が高速で放出され、燐灰石の内部に飛跡を残す。しかしこれらの飛跡は、燐灰石の温度が摂氏110度以上だと修復される。そこで、現存する飛跡の数を数えれば、その試料の温度が110度以下に下がったおおよその時期を把握できる。

 同様に、燐灰石結晶の内部に現存する放射性ヘリウムの量を測定することで、この試料の温度が摂氏30度以下になった時期も推定できる。

 さらに、燐灰石結晶に残存する飛跡の長さを計測して、チームはこの試料がその中間の温度に留まっていた期間の長さを試算した。

◆分析で分かった年代は

 カールストルム氏らの分析の結果は、峡谷の形成された年代は区分によって異なるというものだ。いくつかの先行研究でも、同様の結論が得られている。峡谷の西部に位置する「ハリケーン」と呼ばれるエリアが最も古く、今回のデータからは、7000万~5500万年前ごろに、現在の半分の深さまで侵食が進んだと見られる。

 しかし「東グランドキャニオン」と呼ばれるエリアで侵食が始まったのは、2500万年ほど前のことだというのが、カールストルム氏らの見方だ。さらに、グランドキャニオンの東西の両端のエリアの大部分は、過去500万~600万年の間に形成されたものと見ている。

 カールストルム氏らのチームでは、ハリケーンと東グランドキャニオンの両エリアは、はじめはそれぞれ別の川によって侵食されたものと考えている。その作業を約600万年前に受け継いだのがコロラド川で、それまで個別に存在していた複数の峡谷を結合し、さらに広く深く掘り進めたというのだ。

「全体的に見て、今回の研究は本当にすばらしいと思う」と、アリゾナ大学の地球化学者ピーター・ライナーズ(Peter Reiners)氏は言う。「今回のモデルは、単に既存のさまざまな仮説を折衷したものではない。大きな河川には複雑な歴史がありうるということを示すものだ」。

 だが、今回の仮説に異を唱える専門家もいる。カリフォルニア工科大学の地球科学者ブライアン・ワーニック(Brian Wernicke)氏は、熱年代学的データの解読の難しさを指摘する。特に、侵食が下向きだけでなく横方向にも広がっている地形をフィッショントラック法で年代測定するのは難しいとされる。「今回のモデルは複雑すぎるように思う」とワーニック氏は言う。

 グランドキャニオンの形成年代に関する今回の研究は、「Nature Geoscience」誌オンライン版に1月26日付で発表された。

PHOTOGRAPH BY ERIK HARRISON, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT

文=Sid Perkins