オーストリア、ウィーン工科大学の宇宙建築家サンドラ・ハウプリック・モイスバーガー(Sandra Hauplik-Meusburger)氏率いるドイツ航空宇宙センターの研究チームは、飛行士たちの努力が報われそうだと最近発表したレポートで結論付けている。宇宙での植物栽培は実利を伴うばかりか、心理学的にもさまざまな利点がある。NASAが計画中の2030年代の有人火星ミッションなど、長期間の宇宙ミッション計画では真剣に検討すべきだという。
「育てている植物を、飛行士たちは“僕たちのグリーン・フレンド”と呼んでいた」とモイスバーガー氏は語る。研究テーマは「極限環境での居住可能性」。なぜ植物が有人火星ミッションの成功の鍵を握るのか? 同氏は次のような理由を挙げている。
◆ 1. サラダ・マシーン
「食料の問題はいつの時代でもついて回る」。
宇宙探査のパイオニアたちは、チューブ入りのまずい食事で生き延びなければならなかった。現在は地上で用意され、腐敗防止のために慎重にパックされた食事がある。メニューも豊富で、新鮮なフルーツや野菜が届く場合もあるが、冷凍保存の設備に乏しく、すぐに食べなければならない。
ISSに本格的な温室を設置すれば、野菜を栽培して栄養を補えるようになるだろう。新鮮な野菜は、ストレス軽減、やる気向上などのメリットをもたらすと考えられている。 ISSのロシア側モジュールには、「ラダ(Lada)」という宇宙ガーデンが既に設置されている。モイスバーガー氏によると、「一種のサラダ・マシーン」らしい。NASAは現在、アメリカ側モジュールに「ベジー(Veggie)」を持ち込む予定だ。
◆ 2. ストレスの軽減
心身両面に強いストレスがかかる宇宙では、心安らぐ活動が余暇時間に求められる。
ガーデニングには、ストレスを和らげて気分を明るくする“癒し効果”があるという。NASAの元宇宙飛行士、クレイトン・アンダーソン(Clayton Anderson)氏は次のように証言する。
同氏は数年前、ISSの宇宙飛行士と地上の学生チームが同時にレタスとバジルシードを栽培する教育実験に携わった。彼は活動を活気づけようと、新芽が出たらレタスチームかバジルチームが「得点」するゲームの手法を取り入れた。
「植物が芽を出すと、かわいくて写真を撮りたくなる。なんと言っても、成長を見守るうちに張り合いが出てきて、精神が高揚するんだ」とアンダーソン氏は振り返る。
◆ 3. 空気の質
ISS滞在中のアンダーソン氏は、クルーの古い体操着を別にすれば、不快な臭いはあまり感じなかったという。しかし、モイスバーガー氏によると、「中には敏感な宇宙飛行士もいる。『ワインセラーのような臭いだった』と話す人もいた」そうだ。
温室があれば、不快な臭いの軽減に役立つかもしれない。NASAの研究によると、室内植物は大気汚染物質を吸収し、空気の質を改善する効果があるという。また、植物は空気中の二酸化炭素を取り除き、酸素を補ってくれる。
◆ 4. 時間の経過を表す
地上の人間は、睡眠と覚醒の24時間サイクル「概日リズム」に順応している。一方、太陽光の変化や季節の移り変わりに乏しい宇宙では、概日リズムは混乱し、睡眠障害につながる場合がある。
宇宙での生活にリズムをもたらすのが、やはり温室だという。植物が開花したり生気を失えば、時間の経過がわかるからだ。「パターン化しがちな生活に、植物は変化をもたらす。分刻みのスケジュールだが、そこには違う時が流れている」とモイスバーガー氏は述べている。
今回の研究結果は、「Acta Astronautica」誌2014年3月・4月号に掲載されている。
PHOTOGRAPH BY CARRIE PATERSON, CALIFORNIA STATE UNIVERSITY