アフリカン・スティンク・アントと共に時を過ごすウエストアフリカン・サバンナ・フロッグ。

Photograph by Christian Brede
 皮膚から化学物質を分泌して偽装することで、針を持つ攻撃的なアリの巣の中でも、この両生類は平穏に暮らすことができる。 身を守り、湿気を保つため、西アフリカのサバンナに住むウエストアフリカン・サバンナ・フロッグ(英名:West African savanna frog、学名:Phrynomantis microps)は一日を、さらには乾期の大半を地下の穴に隠れて過ごす。とはいえ、たいていは孤独ではない。

 このカエルはしばしば、非常にどう猛な種であるアフリカン・スティンク・アント(英名:African stink ant、学名Paltothyreus tarsatus)の地下の巣に入り込む。このアリは通常、生活を乱されると攻撃的になり、強力なあごと毒針で侵入者に襲いかかる。

 しかし、彼らはウエストアフリカン・サバンナ・フロッグが自分たちの巣の中でくつろいでいても気にしないようだ。巣の中はこのカエルにとって、他の捕食者から身を隠し、西アフリカの長い乾期をやり過ごせる暖かさと湿気のある環境を得られる安全な場所なのだ。

 アフリカン・スティンク・アントが捕食したり死骸を食べたりする獲物の中にはカエルも含まれることがあると考えると、両者の関係にはいっそう驚かされる。このカエルは一体どうやってアリをだまし、攻撃されずにいるのだろうか。

◆秘密は皮膚に

 ベナンで活動しているドイツとスイスの研究者は、その秘密はウエストアフリカン・サバンナ・フロッグの皮膚にあると考えている。

 この仮説を確かめるため、研究チームはミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)とシロアリに、ウエストアフリカン・サバンナ・フロッグの皮膚分泌物を塗り、アフリカン・スティンク・アントの群れの中に入れた。通常なら、アリは即座に噛みつく、刺すなどの攻撃を始める。ところがこの時、分泌物を塗られた昆虫に対し、アリは30秒から数分、攻撃を遅らせたのだ。

 この驚くべき効果を生み出している、カエルの皮膚から出る化合物を特定しようと、研究チームは純水入りのビーカーにカエルを入れ、皮膚分泌を促すため静かに2分間振動させて、分泌された物質を採取した。

 研究チームは、分泌物は特定の食物によるものではないことを突き止めた。むしろ、この物質は何を食べるかに関係なく分泌されている。この点で、小さな有毒の昆虫を食べることで皮膚に毒性を持たせている他の有毒カエル(色鮮やかなヤドクガエルなど)やヒキガエルとは異なる。

 化学的分析により、研究チームはカエルの皮膚に存在する活性成分を特定した。ペプチドと呼ばれる二つの化合物で、小さなタンパク質のようなものだ。この物質がアリをだまし、自分たちの仲間だと認識させているらしい。

◆“化学擬態”

 アリは触角を使い、害をなす可能性のある侵入者と、同じ巣の仲間を識別している。触角は化学センサーとして作用する、非常に敏感な探知機だ。しかし、ウエストアフリカン・サバンナ・フロッグの体表にあるペプチドによって、アリはこのカエルが同じ巣の住人か、少なくとも侵入者ではないと認識してしまうようだ。

 このカエルに近付く際、アフリカン・スティンク・アントはカエルの体表に触角を滑らせ、においを感じ取る。見知らぬ侵入者であれば、激しい針の攻撃が始まるところだ。しかしアリはカエルの存在をとがめることなく、巣の中にいてもほぼ無視してしまう。

「アリのように見えるなら」たぶんアリなのだろう、と判断しているわけだ。

 今回の研究結果は、査読付きオープンアクセスの米オンライン科学誌「PLOS ONE」に2013年12月11日付けで発表された。

Photograph by Christian Brede

文=Mary Bates