アメリカ食品医薬品局(FDA)は、抗菌石鹸の効果を実証するよう各メーカーに求める方針を示した。

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 アメリカ食品医薬品局(FDA)はこのほど、抗菌石鹸の病気予防や感染抑制の効果が、普通の石鹸よりも勝ることを実証するようメーカー各社に求めていく考えを示した。また長期間使用した場合の安全性についても、その証明を義務付ける方針だという。抗菌効果をうたった石鹸やボディソープをめぐっては、以前から議論がくすぶっていた。 FDA医薬品評価研究センターのサンドラ・クウェダー(Sandra Kweder)氏は、「自社製品の抗菌効果を主張し、細菌感染の予防につながるという認識を消費者に広めようとするならば、メーカーは裏付けるデータを明らかにすべきだ」と語る。

 またFDAは、「抗菌製品に含まれるある種の抗菌活性成分を長期間使用すると、耐性菌の誘発や生体にホルモン作用をおこしたりするなど、健康上のリスクをもたらす可能性を示唆するデータもある」と指摘。FDAは明示を避けているが、“ある種の抗菌活性成分”は、トリクロサンおよびトリクロカルバンという殺菌剤を指すと考えられる。前者は液体石鹸や歯磨き、洗顔料、後者はシャンプー、固形石鹸に多く含まれている。現在販売されている抗菌系の商品は数千種類に上るが、最も利用されているのがこの2成分だ。

◆安全性に疑問も

 ワシントンD.C.を拠点とする消費者団体「Beyond Pesticides」の科学者スタッフ、ニシェル・ハリオット(Nichelle Harriott)氏の私見によれば、トリクロサンとトリクロカルバンは見過ごせない問題を抱えているという。人体へ直接接害を及ぼす可能性、耐性菌の出現、および最も重要な病原菌に効果が弱いという3点である。

 第1の問題点についてハリオット氏は、「トリクロサンは内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモンで、人間のホルモン系統、中でも甲状腺ホルモンの働きを阻害する作用を持つ」と語る。もっとも、動物実験による検証だけで、どの程度深刻な影響を与えるのかは未解明の段階だ。しかし、懸念するに足るデータの存在もまた事実だとハリオット氏は語る。

 また同氏によると動物実験では、エストロゲンや妊娠ホルモンなど、雌性ホルモンの阻害にトリクロサンが強く関与するという結果が得られており、胎児の発育に影響がおよぶ危険性を研究者が指摘しているという。

◆FDAの見解

 一方FDAはWebサイト上で、「トリクロサンが人間に有害であるという確証は今のところ得られていない」との見解を示している。トリクロサンの安全性を疑問視する近年の研究結果はFDAも認めているが、「人間にも当てはまるとは限らない」と消極的だ。

 ただし、「FDAの検証後に発表された研究結果の中には、検証に値する事例がいくつかある」とも述べている。

 ハリオット氏によると、米国疾病予防管理センター(CDC)がアメリカの成人2517名を対象に尿検査を実施したところ、75%からトリクロサンの痕跡が検出されたという(結果は論文誌「Environmental Health Perspectives」に掲載)。また、スウェーデンやオーストラリアの研究グループが行った調査でも、臍帯血(さいたいけつ)および母乳から痕跡が検出された。ちなみにトリクロサンは、脂肪組織に蓄積される傾向が知られている。

 ハリオット氏も認めているが、実際に消費者の健康にどのような影響を与えるのかは今のところ定かではない。しかし、殺菌剤の使用禁止が早計に過ぎるとも言えないと懸念している。

◆抗菌石鹸は不要か

 ハリオット氏が勧めるのは、安全性が確認されている普通の石鹸と水だ。「細菌に対して不安を抱く気持ちはよくわかるが、抗菌石鹸に劣らない効果が得られる」という。 普通の石鹸がない場合は、アルコールベースの消毒剤でもかまわない。

「石鹸と水、もしくは消毒剤で十分だ」と同氏は述べている。

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文=Brian Clark Howard