今回発表された最低気温の新記録は、2010年8月10日に計測されている。
研究に用いられたデータは31年にまたがり、米国海洋大気庁(NOAA)の複数の人工衛星に搭載された改良型超高解像度赤外放射計(AVHRR)という機器と、NASAの地球観測衛星テラ、アクアおよびランドサット8号のさまざまな機器で記録されたものだ。これらの機器は、南極大陸の地表からの熱放射を計測している。
◆「特殊な出来事ではない」
南極大陸はいつでも寒いところだ。平均気温は氷点下83度で、数度の幅でしか変動しない。今回、最低記録を更新したといっても、温度計は毎冬、似たような数値を示している。
特に気温が下がるのはふつう、雲のない晴れた日だ。というのも、雲が毛布のようなはたらきをして、熱を逃げにくくするからだ。だが、米コロラド州にある国立雪氷データセンターのギャレット・キャンベル氏によると、それ以外の条件の日でも気温が下がることはあるという。「特殊な出来事というわけではない」。
キャンベル氏はサンフランシスコで開催中のアメリカ地球物理学連合の会合で、今回の記録更新を報告した。
研究チームでは、空気は冷たいほど密度が高くなるので、下に沈むはずだと考えていた。冷たい空気は高地の斜面を滑り落ち、低いところにたまるというのが当初の見方だった。ところが分析によって、特に冷たい空気は斜面の途中の平坦な箇所でとどまっていると分かった。標高が高いので、温度は低いままだ。
キャンベル氏は、冷たい空気が斜面の下まで降りていかない理由を説明しうる、ひとつの仮説を示した。低地のほうが気圧が高いため、局地的な冷たい空気が降りていっても押し返され、それ以上沈めなくなるのではないかというものだ。とはいえ、この仮説が正しいかどうかを確認するにはさらなる調査が必要だ。
今回の新記録にはひとつ問題がある。この数値は衛星からのデータによって地表の気温を推定したものだが、30年前のボストーク基地の記録は地表から2メートルの高さの気温を実際に測ったものだ。しかしこの高さでは、地表よりわずかだが高い気温が計測されることが多い。
Photograph by Atsuhiro Muto -- National Snow an Ice Data Center/AP