この二枚貝の死は2007年に最初に報じられたが、昨年イギリス、バンガー大学のジェームズ・スコース(James Scourse)氏率いる研究チームが、この貝の年齢を再分析し、推定507歳と発表したことから、死の経緯が改めて注目されることとなった。
報道に反して、研究チームはこの年老いた二枚貝を、年齢を調べるという、ある意味矛盾した目的のために殺したわけではないという。
「この貝は、2006年にアイスランドの大陸棚で生きたまま採取された約200個体のうちの1つだ」と、同じくバンガー大学に属する気候科学者ポール・バトラー(Paul Butler)氏は述べる。バトラー氏とスコース氏は、過去1000年間の気候変動について調べる研究プロジェクトの一環として、この貝を採取した。
採取した200個体の貝は、陸へ持ち帰るために船上で凍らせたので、そのときにすべて死んだ。研究室に戻り、貝殻を顕微鏡で観察して初めて、明が非常な高齢であることがわかった。
◆明王朝時代からの生き残り
2007年に話題にのぼったとき、研究者が推定する明の年齢は約405歳だった。この時点で既に、既知の動物個体としては世界最高齢だった。
しかし、その後の再分析の結果、明はさらに高齢であったことが判明した。
ミンが生まれた年、レオナルド・ダ・ヴィンチは「モナ・リザ」を制作中であり、記録上では初の天然痘の流行が新世界を襲い、明王朝が中国を支配していた(貝の名はこれにちなむ)。イギリスのエリザベス1世が即位したのは、明が52歳のときだ。
◆貝の年齢を数える
明の年齢は、貝殻の年輪を数えることで割りだされた。このアイスランドガイという種の二枚貝では、毎年1本ずつ年輪が増える。
前回の推定年齢とは100年の開きがあるが、これは、2007年に明の貝殻を分析した際、調べた部分に年輪の間が狭く、1本1本を区別できないところがあったためだ。
海洋地質学者のスコース氏によると、新たな推定年齢は、放射性炭素年代測定の結果にも照らして確認しており、「ほとんど誤差はない」という。
◆出生証明をもたない貝
スコース氏とバトラー氏が明を生きた状態で採取したとき、それは手の平に収まるサイズの、平凡なアイスランドガイに見えた。
アイオワ州エイムズにあるアイオワ州立大学の博士課程に在籍し、同じくこの種の貝を研究しているマデリン・メティ(Madelyn Mette)氏は、「これらの貝は一定の年齢に達すると、毎年さほど大きくはならない(中略)。大きな貝が獲れたとしても、サイズにあまり差がないので、それが100歳か300歳かを見分けるのは困難だ」。
スコース氏は、採取した200個体の貝は、世界全体の生息数のごく一部にすぎないと指摘する。そのため、明が既知の中では最高齢の動物であったとしても、海に生息するアイスランドガイの中で実際に最高齢の個体であった可能性は「ごくごくわずか」だという。
◆最高齢のクラムチャウダー?
実際のところ、明時代から生きてきた貝を我々がランチで食するということも、ありえない話ではない。北大西洋産のアイスランドガイといえば、クラムチャウダーによく用いられる貝の1つだ。
いずれにせよ、明の犠牲は、過去数百年間にわたる長期の気候変動が海洋生物に及ぼした影響を調べるという、スコース氏とバトラー氏の研究に役立つはずだ。
「507年というのは最高記録だ」とスコース氏は述べる。「ここから海洋の気候変動の年次記録が得られる。北大西洋では、これまでそのような記録は得られていない」。
Photograph courtesy Bangor University