アカシア、樹液でアリを奴隷に変える

2013.11.07
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アリは、アカシアの樹液に含まれる酵素によって糖分依存状態に陥る。

Photograph by Alexander L.Wild
 互いに利益を得ながら進化してきたアカシアとアリだが、その相利共生の関係(共進化)には、一方を依存状態に追い込む巧妙な戦略が潜んでいたことがわかった。 中央アメリカでは、アリがアカシアのボディガードの役割を担っている。はびこる雑草を防ぎ樹液を狙う動物から守るアリは、代わりに住処とエサを得る。自然界の代表的な共生関係の1つだ。

 しかし、メキシコのシンベスタブ・ウニダード・イラプアト(Cinvestav Unidad Irapuato)研究所のマーティン・ヘイル(Martin Heil)氏は、アカシアの樹液が含む酵素によって、アリがほかの糖源を摂取できないように仕向けられている状況に気付いた。

 住処と食事を得るアリは、死ぬまで労働を強制されるのである。「受け身で移動できない植物であるアカシアが、活動的なアリを巧みに操っている」とヘイル氏は驚きを語る。

◆樹液中毒

 ヘイル氏は、乳糖(ラクトース)を化学的に分解した乳製品を販売して、消費者を囲い込もうとする乳製品販売会社に例える。牛乳を消化できなくなった消費者が依存する様子が、アカシアそっくりだいうわけだ。

 その手口は巧妙だ。アリが摂食する樹液などのエサには、ショ糖などの甘い糖分が多く含まれている。小さな糖に分解して消化するには、インベルターゼという酵素が欠かせない。

 へイル氏は2005年、アカシアアリ(学名:Pseudomyrmex ferrugineus)のインベルターゼが不活性化して、通常のショ糖を消化できくなっている状態を突き止めた。

 一方、アカシアは、それを補うかのようにインベルターゼを樹液中に分泌し、消化しやすい食餌を提供している。結果的にアカシアアリは、アカシアの樹液に依存するように強いられる。

 しかし、この依存関係には腑に落ちない点がある。アカシアの樹液に固執するアカシアアリは、なぜ重要な酵素を失ったのか?

 研究を続けたへイル氏は3年後に、幼虫時代には正常だったインベルターゼが、成虫になる頃には不活性化するとの結論に達した。

◆犯人は?

 アカシアが原因でこの現象が起こると同氏は主張する。樹液に含まれるキチナーゼという酵素が、インベルターゼを阻害しているという。

 サナギから成虫に羽化したアカシアアリは、まず樹液を口にする。アカシアの思惑通りインベルターゼが不活性化し、その活性は二度と元に戻らない。

◆メカニズム

 同氏は現在、キチナーゼによるインベルターゼの阻害の仕組みを解明しようと取り組んでいる。

「生化学者に尋ねてみたが、酵素が別の酵素を阻害するケースはあり得ないと、皆口をそろえて言う。だが、未知のメカニズムがあるはずだ」と同氏は語る。

「利益供与の関係が一方的でも、共進化のシステムが維持される場合があるようだ」と、アメリカ、シカゴのフィールド自然史博物館の進化生物学者コリー・モロー(Corrie Moreau)氏は述べる。

 アカシアとアリの場合は、アカシアの巧みな戦略によってほかに消化できるエサがなくなり、アカシアを防衛する羽目に追い込まれる。

 一方、モロー氏には疑問点も残っている。「まともな酵素を持つ幼虫や羽化したばかりの成虫時代に、アカシア以外のエサにありつくケースはないのだろうか?」

 これに対してヘイル氏は、アカシアの樹液は最も身近で、しかも巣でほかの成虫から与えられるため、ほぼすべてが最初に摂る食事だと考える。「最初の一口で十分だ。インベルターゼの活性は失われ、この共生関係から逃れられなくなるというわけだ」。

 今回の研究結果は、「Ecology Letters」誌オンライン版に11月4日付けで発表された。

Photograph by Alexander L.Wild

文=Ed Yong

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