今回の新種の復元につながったのは、世界遺産にも指定されているクイーンズランド州北西部のリバーズレー哺乳類化石地域で採集された石灰岩の中から数年前に発見されていた1本の歯であった。
この化石は、しまいこまれたまま忘れられていた。これを2012年に棚の中から再発見したのが、今回の研究を率いたレベッカ・ピアン(Rebecca Pian)氏である。ピアン氏はニューヨーク市にあるコロンビア大学の博士課程の学生で、当時はオーストラリアのニューサウスウェールズ大学に留学中だった。
ピアン氏はこの歯を一目見て、何かおかしいと感じた。これまでに見つかっているどんなカモノハシの歯よりも大きかったからだ。これを精査するうちに「ちょっと待って、この歯は大きいだけじゃない、ほかにもかなり変わっている」と言わずにいられなかったとピアン氏は振り返る。論文の共著者となったマイク・アーチャー(Mike Archer)氏に見せたところ、アーチャー氏もすぐにこれが新種であることを認めた。
この歯にはカモノハシの歯だけが備えるとされる特徴が明確に示されていた。だがそれだけでなく、これまでカモノハシでは確認されたことのない複数の突起やうねもあった。この歯の持ち主であった個体の大きさを推測するため、ピアン氏らはほかのカモノハシの歯の大きさを基準にして大まかな計算を行った。
すると、この個体はこれまでに確認されているどんなカモノハシよりも大型であることが分かった。チームの発見は、これまで考えられていたカモノハシの進化の歴史を揺るがすものであった。
◆化石記録のミッシングリンク
カモノハシは哺乳類では珍しく卵を産むグループであるカモノハシ目(単孔目)に属する。カモノハシ目には現生では5種しか残っていない。カモノハシのほかに、ハリモグラの仲間4種が現存しており、いずれもオーストラリアおよびニューギニア島に生息している。
カモノハシの仲間は、絶滅したものがこれまでに4種見つかっているのみだ。それぞれの生息時期は重なっていない。専門家の間では、化石記録に大きな抜けがあると考えるものと、カモノハシの仲間はあまり多様ではないと考えるものに分かれている。問題の一部は、多くの場合は歯の化石しか見つからないことだ。歯は堅いエナメル質に守られているため、年月を経ても残存する場合がある。
今回の新種の発見により、「カモノハシはこれまで考えられていたより複雑な進化を経ている可能性がある」ことが分かったとピアン氏は言う。
というのも、今回の新種は大型で、歯の形状が肉食獣の特徴を多く備えているからだ。ほかに確認されているカモノハシは主に軟らかな無脊椎動物を口にしていたと考えられるが、この新種はもう少し大きな生物(たとえばカエルなど)を食べていた可能性があるとピアン氏は言う。食生活が充実していたことで、さらなる体格の向上につながったはずだとピアン氏は言い添えた。
今回の新種がこれほど大きな歯を有していたのは驚くべきことだ。古い化石から、カモノハシは進化の過程で歯が小さくなり、本数も減ったものと考えられていたためだ。たとえば現存するカモノハシでは、歯は子供の頃にしかない。成長すると口の中の堅い隆起で、軟らかな獲物をすりつぶすようにして食べるようになる。
もしかすると、今回発見された化石種は、現存するカモノハシの系統とは別に枝分かれした種である可能性もある。
◆手堅い調査
「手堅い調査結果だと思う。もし私が発見したとしても、新種と見なしただろう」とテキサス大学オースティン校の古脊椎動物研究室を率いるティモシー・ローウェ(Timothy Rowe)氏は言う。
ローウェ氏は今回の研究には参加していないが、カモノハシの歯は「きわめて特徴的」なので、今回の歯がカモノハシの仲間のものであることは間違いないと話す。
今回の発見によって裏づけられたのは、カモノハシやハリモグラの仲間の進化について、私たちはまだ多くのことを知らないということだとローウェ氏は言う。
それでも「(未知の)領域を埋めはじめたところだ。それはどんな場合にも喜ばしいことだ」とローウェ氏は語った。
古代の大型カモノハシに関する今回の論文は、「Journal of Vertebrate Paleontology」誌の11月号に掲載された。
Reconstruction by Peter Schouten