◆きれいな夕焼けが起こる仕組みを簡単に説明してもらえますか?
まず、人間の眼で見ることができるのは、太陽から発せられる電磁波のごく一部にすぎないことを頭に入れておいてください。太陽放射の波長は広範囲にわたりますが、人の眼で感知できるのは可視波長と呼ばれる範囲に限られます。色はそれぞれ異なる波長を持っています。
光が地上に到達する際の条件によっては、可視波長が人の眼に届かないこともあります。光の一部が大気に吸収されてなくなってしまうのです。
つまり、きれいな夕焼けというのは毎日起きているものの、かならずしも地上から見えるわけではないのです。
◆ほかの時間帯に比べて、夜明けや日没時の空がオレンジや赤に近い色に見えるのはなぜですか?
太陽光線が大気中の微粒子にぶつかると、“散乱”と呼ばれる現象が起こり、一部の波長が四方八方に散らばります。このような散乱が数限りなく繰り返された末に、日没時に太陽の光が人の眼に届くことになります。
大気中の微粒子の主なものは酸素と窒素ですが、これらは極めて微小で、太陽光の波長の1000分の1ほどしかありません。つまり、色の中でも波長の短い青と紫から先に、これらの粒子にあたって散乱していきます。昼間、空が青く見えるのはこのためです。では、昼間の空の色が最も波長の短い紫に見えないのはなぜでしょう。それは、光に対する人の眼の感度が、スペクトルの中間に位置する緑(紫よりも青に近い)で最高になるからです。
ですが、日没時には、太陽が真上にある日中に比べて、太陽光が大気層を通過して人の眼に届くまでの距離が長くなります。つまり、波長の短い青は、地上に届くころにはほとんどが散乱してなくなってしまうというわけです。アメリカ西海岸では光線中に青が含まれていたのが、東海岸に到達するころにはほとんどオレンジと赤しか残っていないというようなことも考えられます。
◆では、西部のロッキー山脈と東部のアパラチア山脈のどちらにいても注がれる太陽光は同じで、基本的に日没時に東部に届く光は西部の残りもの、ということですか?
そのとおりです。多くの人はおそらく気づいていないと思いますが。色の見え方は、光が地上に到達する距離と、対象物がその光をどう反射するか、さらにはその光に対する人の眼の感度によって変わってきます。色の見え方に絶対的な基準などないのです。
◆ちりや大気汚染が原因で夕焼けが美しくなるということはありますか?
いいえ。よく耳にする話ですが、下層大気における一般的な汚染に限って言えば、これは俗説にすぎません。実際はむしろその逆で、大気の下層に大量の粒子があると、より多くの光が吸収され、全ての波長が多かれ少なかれ不規則に拡散されることから、ぼやけた色になる傾向にあります。つまり、ドラマチックな夕焼けは期待できません。
◆季節の違いは夕焼けに影響しますか?
特にアメリカ東部では秋と冬にひときわ鮮やかな夕焼けが見られますが、これは太陽光が通過する大気が澄んで乾燥していることが多いためです。
私は東部のメリーランド州ボルチモアで子ども時代を過ごしましたが、このことが気象に興味を持つきっかけになったと思います。今日の夕焼けはなんでこんなにきれいなんだろう。そんな疑問を抱いたものの、よくある天気の本を見ても答は一向に見つかりませんでした。これは天気予報というより、むしろ自然物理学的な問題なのです。
◆予報と言えば、「夕焼けは船乗りを喜ばせ、朝焼けは船乗りを用心させる」という英語のことわざがありますが、これは科学的に見てどうなのでしょう?
夕焼けが美しいというのは、大量の澄んだ空気が西側にあり、それが翌日こちらにやってくる可能性が高いことを示しています。
◆つまり逆に言うと、天気予報できれいな夕焼けを予測できるということですか?
はい、ある程度は予測できます。ですが、このような情報を有難がるのは、おそらく映画監督かカメラマンくらいでしょう。ほとんどの人は、明日雨になるかどうかが分かればそれで十分なのではないでしょうか。
◆夕焼けが見えるころには、太陽はすでに沈んでいるというのは事実ですか?
そのとおりです。実際には、我々が日没を目にする1分ほど前に太陽は沈んでしまっています。見えているのは一種の幻影です。屈折効果により光が地平線付近にたまっているのです。
◆夕焼けに関する科学的根拠は多くあるようですが、夕焼けを見るというのは非常に主観的な体験でもあるのですね?
はい。人間の眼は太陽光の波長スペクトルのごく一部しか感知することができず、このことが周囲の見え方を決定づけています。生物の中には紫外線域を見ることができるものもいるようですが、人間には世の中で起きている事象のほんのわずかしか見えていないのです。
※インタビューの内容を編集、要約して掲載しています。
Photograph by Alex Wong, Getty Images