ハルビンの大気汚染、主因は暖房設備か

2013.10.23
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大気汚染物質を含む、濃い靄(もや)に包まれた中国北東部の都市ハルビン。道路が一部閉鎖され、警察官が交通整理に当たる(10月21日)。冬場を迎え石炭暖房の利用が一斉に始まり、大気汚染を引き起こしたと見られている。

Photograph by China Daily, Reuters
 中国北東部の都市ハルビンで今週、ほぼ市内全域が大気汚染物質を含む濃い靄(もや)に覆われる事態となり、道路や空港が一時閉鎖、市内の学校でも休校が相次いだ。昨今の中国では石炭燃料への依存度が高まり、大気汚染が各地で深刻化している。ハルビン市の事態を目の当たりにすると、抜本的な対策には程遠い現状が伺える。 靄の影響で、視界が20メートル未満に低下した地域もあるという。冬場を迎え、一斉に始まった石炭暖房の利用が主な原因と見られている。市当局者は、収穫後の焼き畑や、無風状態の気候も影響したと話している。

 人口1000万人を超えるハルビンは、真冬の気温が時に氷点下40度を下回るような寒冷地だ。1年の内、半年は暖房が必要となる。2010年、市当局は総額1億円超の対策を実施。国の省エネ対策の一環として、床面積およそ200万平方メートル分の住居用建物を対象に、断熱効果の高い窓や屋根に加え、5層構造の新しい断熱壁を設置した。

 しかし、国内消費のエネルギー資源の70%が石炭で占められる現状では、焼け石に水と言わざるを得ない。中国は、世界最大の石炭消費国、二酸化炭素排出国なのだ。化石燃料の利用に伴う汚染物質の排出は、市民生活に深刻な影響を与えているが、健康面へのダメージはどうなのだろうか。

◆平均寿命の低下

 今年7月、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌で発表された研究論文によると、大気汚染の影響で、中国人の寿命が延べ“25億年分”以上失われたという。1950年~1980年の中国北部では、家庭やオフィスに使う暖房用石炭の無料配給が国の政策で実施されていた。1990年代になると、地域住民5億人の平均寿命が南部に比べ5.5年も低下。こうした地域間格差は現在も続いているが、石炭の燃焼による大気汚染が心臓や肺の疾患を引き起こすためと専門家は分析している。

 今週ハルビンで測定された微小粒子状物質(PM2.5)のレベルは、1立方メートルあたり1000マイクログラム。世界保健機関(WHO)が定める、24時間平均の目標レベルの実に40倍を超えている。極めて憂慮すべき事態だが、中国では決して珍しい現象ではない。首都北京や隣の天津をはじめ北部の都市の多くは、大気汚染が国際的に見ても最悪のレベルにある。

 長江河口の三角州地帯、長江デルタで2度にわたる大気質調査を1995年~2004年に行ったアメリカ、デューク大学ニコラス環境スクールのビル・チャメイデス氏は、「今回のニュースを耳にして、調査当時を思い出した」と語る。「あの時は本当にひどかった。国内どこでも空一面、灰色の靄に覆われていた。タクシーの運転手が冗談を言っていたよ。犬は毎月1回、月夜の晩に遠吠えするが、昼間でも太陽が隠れてばかりいる中国じゃ、その日は1日中遠吠えしているってね」。

◆世界を視野に入れたエネルギー政策を

 大気汚染対策として中国政府は今年、北京と上海および広州近郊の3カ所の工業地帯で、石炭火力発電所の新設を禁止する措置を発表した。

 また、石炭などを原料とする合成天然ガス(SNG)に切り替える大規模プロジェクトも、少なくとも9件が現時点で認可されている。ただし、汚染の軽減効果が認められているSNGには、ほかの環境問題の原因となる可能性が指摘されており、最終的な解決策には程遠い。この問題について「Nature Climate Change」誌に最新の研究論文を発表したデューク大学の楊啓仁氏によると、SNG製造には大量の水が必要で、燃焼で排出される温室効果ガスの量は天然ガスの7倍にも上るという。

「SNGの導入を進める中国政府にとってはおそらく、地球温暖化よりも国内の大気汚染を重視しているのだろう。将来を見据えた政策を打ち出さない限り、いつまでたっても“持続不可能な開発”という従来路線から抜け出せない」と楊氏は分析している。

 政府のエネルギー政策が、ハルビンなど国内都市に暮らす人々にとって切実であることは言うまでもない。問題はその影響がおよぶ範囲が、中国の国境をはるかに越えることだ、と楊氏は指摘。前出のチャメイデス氏もほぼ同意見を述べる。「アメリカをはじめ世界中の消費者にとって、中国経済は切り離して考えられない。中国の環境汚染は全世界の脅威と受け止めるべきだ」。

Photograph by China Daily, Reuters

文=Christina Nunez

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