米国、政府閉鎖で科学分野に長期的影響

2013.10.22
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南極大陸最大の居住施設、アメリカのマクマード基地。アメリカ連邦政府の機関閉鎖により、長期的ダメージを受けると考えられている。

Photograph by George Steinmetz, National Geographic
 16日間続いたアメリカ政府機関の閉鎖が終結し、自宅で待機していた連邦職員も通常勤務に戻った。しかし、科学分野への影響は今後も長期的に続くと考えられている。今回は総計100万人が自宅待機となったが、その多くは科学調査活動に携わる研究者とその関係者だった。 閉鎖による経済的損失は240億ドル(約2兆3600億円)に達すると推定されているが、科学部門の長期的ダメージを考慮に入れれば、とてもこの額では収まらないだろう。

 今回は、連邦政府の科学機関に対して実際にどのような影響があったのか、その概要を確認しておこう。

◆アメリカ国立衛生研究所(NIH)

 多数の職員が自宅待機となったNIHクリニカルセンターでは、臨床試験に参加する新規患者の受け入れがほぼストップした。通常は週におよそ200人の新規重症患者を受け入れているが、10月第1週はわずか12人に減少。

 また、NIHが管轄する研究助成金についても、審査会合が200件以上キャンセルとなり、約1万1000件の新規申し込みが保留状態となっている。

 なお、NIHによると、再開後の業務や患者受け入れ態勢は平時の状態に戻っているという。

◆アメリカ国立科学財団(NSF)

 NSFは、南極大陸に派遣した人員を施設維持に必要な最低限のレベルまで引き下げる処置を取った。例年であれば10月に開始される調査活動が、今年は機関閉鎖の影響により遅延が生じている。現時点では、「どの調査プロジェクトが翌年に繰り延べになるか」といった詳細は判明していない。

◆アメリカ地質調査所(USGS)

 9000人の職員ほぼ全員が自宅待機となり、五大湖を侵略的外来種のコイから守るために開発中の音響障壁システムの実地試験がフイになってしまった。水温が下がる冬は実験に適さず、来年の春まで延期される始末。また、地震モニタリングシステムが機能停止に追い込まれ、通常であれば数分で済む復旧作業が数時間も長引いた。サンフランシスコ湾岸地域やハワイ、太平洋北西部などに設置されたセンサーのデータに欠落が発生している。

◆アメリカ疾病予防管理センター(CDC)

 職員の3分の2が自宅待機。必要な人員を確保できず、アメリカ全土を対象とするインフルエンザのモニタリング作業が停止した。現在、早期の通常業務再開を目指して取り組んでいるが、長期的影響については未確定だという。

◆アメリカ航空宇宙局(NASA)

 自宅待機から外れたのは、国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士2人と、テキサス州ヒューストンのミッションコントロールセンターでフライトコントロールを担うスタッフのみ。職員のほぼ全員が職場から姿を消した。

 今年9月に打ち上げられた無人月探査機LADEE(月大気・ダスト環境探査機)は、機関閉鎖中の10月6日に第1回月軌道挿入マニューバーを実施、月の周回軌道へ入った。その後2回の軌道変更を経て、ほぼ円軌道に近づいている。地上管制業務は通常どおり行われ、火星探査車キュリオシティも移動を続けた。また、次世代火星探査機MAVENの打ち上げも、11月中旬の予定に変更はない。

 しかし、それ以外のNASAの科学活動はほとんどが停止、2018年の打ち上げを目指すジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の開発も一時中断した。

◆その他の影響

 機関閉鎖は、連邦政府の科学調査活動に影響を及ぼしただけではなく、州・地方自治体レベルの組織や大学に所属する科学者の研究の遅延につながった。

 アメリカの非営利科学者団体「憂慮する科学者同盟(UCS)」で広報を担当するアーロン・ハーテス(Aaron Huertes)氏は、「ゴタゴタは終結した。しかし、科学分野への影響はまだまだ続くだろう」と話す。「UCSのメンバーからも、研究の停滞が多数報告されている」。

 大学院生たちは、「連邦施設のデータやファイル、設備が利用できなければ研究ができない」と訴えた。ある植物病理学者は、「アメリカ農務省(USDA)の施設が閉鎖されていると、農作物の病害を特定して農家をサポートできない」と嘆いている。フロリダ州の大学では、熱帯暴風雨「カレン」の接近に合わせて行う、河川の水銀汚染のモニタリング調査が継続不能になった。嵐で土地が浸食され、地中の水銀が拡散する様子をとらえるはずだったという。

Photograph by George Steinmetz, National Geographic

文=Jessica Morrison

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