「イエティの正体はクマ」の真偽は?

2013.10.22
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イエティのマスクをかぶっておどけるヒマラヤ登山隊のメンバー。パキスタンが実効支配するカシミール地方の山、ナンガ・パルパットにて。

Photograph by Tommy Heinrich, National Geographic
 イギリスの科学者が伝説の雪男、イエティのものとされる体毛のサンプルを調査し、これが現在のホッキョクグマの祖先と遺伝的につながっているとの結果を発表した。さらにこの生物は、現在でも生息している可能性があるという。しかし他の専門家は、結論を出す前に、まずはこの研究結果を学術論文として公開する必要があると指摘している。 現地時間10月17日にこの研究結果を発表したのは、イギリス、オックスフォード大学に所属し、遺伝学者として高い評価を受けているブライアン・サイクス(Bryan Sykes)氏だ。同氏は1年をかけて、謎の多い生き物、イエティのものとされる毛や体組織のサンプルを集中的に調査した。

「2012年にイエティやビッグフット、サスカッチなどの毛のサンプルの提供を呼びかけたところ、世界中から良い反応があった」と、サイクス氏はNBCニュースの取材に対して語っている。

 こうして同氏が受け取ったサンプルの中でも最も有望なものの1つが、インド北部のラダッック地方にある、イエティのミイラと伝わる遺骸の毛だった。この毛は40年前、このミイラを見る機会があったフランス人登山家が持ち帰ったものとされている。さらにもう1つ、約10年前にブータンで見つかった1本の毛も、有望とされた。2つのサンプルが見つかった場所は距離にして1300キロほど離れている。

 サイクス氏によれば、これら2つのサンプルから採取されたDNAは、2004年にノルウェー領の北極圏で見つかったホッキョクグマのアゴの骨のDNAと遺伝的特徴が一致したという。この骨は、最も古い場合で12万年前のものと推定されている。

 サイクス氏の発見は、ドキュメンタリー番組「ビッグフット・ファイルズ(Bigfoot Files)」で大きく取り上げられている。10月20日には番組の第1回が、イギリスのテレビ局、チャンネル4で放送された。

◆いまだ生息の可能性も?

 サイクス氏によれば、2つの毛のサンプルは非常に離れた場所から見つかっており、しかも発見の時期が比較的最近であることから、これらの毛のもととなった種が、今でも滅びずに生息している可能性はあるという。

 サイクス氏はこの生き物について、クマの新種、あるいはホッキョクグマとヒグマの雑種ではないかと推測している。

「次の課題は、現地に行ってこのような動物を見つけることだ」と、サイクス氏はAP通信に語っている。

 また、メイン州ポートランドにある国際未確認動物博物館(International Cryptozoology Museum)の所長、ローレン・コールマン(Loren Coleman)氏は、ササイクス氏の発見について、「(謎の、あるいは存在が確認されていない動物を研究する)未確認動物学の世界で、ここ10年で最大のトピックだ」と評価している。

 前述のドキュメンタリー番組にも出演しているコールマン氏はさらに、サイクス氏の発見は、これまで報告されているイエティのうち、1種類に関する謎を解き明かすにすぎないと述べた。

「これが“イエティ”という言葉にまつわる問題点の1つだ」と、コールマン氏は指摘する。「3つの異なる種類の生き物が、まとめてイエティと呼ばれてしまっている。小型の生き物、人間ほどの大きさのタイプのほかに、3つめとして、ズテ(Dzu-Teh)という名で知られる、より大型のものがある。サイクス氏が調べたサンプルは、この大型のタイプから採取されたもので間違いないだろう。我々のようなこの分野の研究者は、ズテの正体がクマの一種ではないかと、かねてから推測していた」。 ◆分かれる専門家の意見

 ニュージャージー州にあるキーン大学に所属する科学史家のブライアン・リーガル(Brian Regal)氏は、未確認のクマの種がヒマラヤ山脈に今も生息しているかもしれないとの指摘について、「胸躍る話だ」としながらも、伝説のイエティと今回の体毛のサンプルを断定的に結びつけるのは難しいだろうと述べている。

「未確認動物学の研究者にとっては、さらなる失望を呼ぶ結果だ」とリーガル氏は語っている。「(サイクス氏が)今回調査したDNAサンプルがクマのものだったことを示したとはいえ、これがこれまで人々が見てきたのと同一の生き物とは限らない」。

 一方、ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館に所属する生物学者でホッキョクグマの研究にあたるロバート・ロックウェル(Robert Rockwell)氏は、理屈の上では、ヒマラヤ山脈に未発見のクマの種が生息している可能性はあると述べている。

◆他の研究者による検証の必要性

 しかし、そのロックウェル氏も、サイクス氏の研究結果が査読制度のある学術誌に掲載されたものを見てからではないと、今回の体毛のサンプルが本当にクマのものだと断定できないと述べている。

「今回の主張は非常に少数のサンプルに基づいており、これらのサンプルのDNAも、おそらくある程度は劣化しているだろう。(DNAの)配列データが論文で明らかにされなるまでは、やや懐疑的に見ておくつもりだ」(ロックウェル氏)。

 ニューヨーク州立大学バッファーロー校所属の分子生物学者、シャーロット・リンドクビスト(Charlotte Lindqvist)氏も、同様の見解を示し、「今回のデータが論文として公開され、精査を受けるよう望む」と述べている。リンドクビスト氏はまた、サイクス氏が遺伝情報の比較に用いた、ホッキョクグマの先祖のアゴ骨からDNAを採取した研究チームの一員でもある。

「論文が公開される前の時点では、12万年前のホッキョクグマとヒマラヤ山脈に生息するクマ(あるいはイエティ)との間に何らかの関連性があるとの指摘は、根拠の薄い主張のように思える」と、リンドクビスト氏は電子メールに記している。

 サイクス氏も、自らの発見を論文にする意向を示している。同氏はNBCニュースに対し、「このプロジェクトはまだ進行中だ」と語り、「このテーマを科学の領域に再び持ち込むため、学術誌にこれらの分析結果を論文として発表するつもりだ」と述べた。

Photograph by Tommy Heinrich, National Geographic

文=James Owen

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