シャチに更年期? 閉経するまれな動物

2013.10.21
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シャチのメスは閉経すると考えられている(資料写真)。

Photograph by Ralph Lee Hopkins, National Geographic
 シャチは、メスが閉経する数少ない生物種の1つだ。閉経することが確認されている種は、シャチを含めてわずか3つしかない。生殖を終えた後も長く生きることで、シャチのメスは自分の子ども、特にオスの子どもが、成熟して間もない困難な時期を生き延びることを助け、その後は孫の養育を助ける。閉経は、シャチ以外ではヒトとゴンドウクジラでしか確認されていない、進化的にまれな特徴であり、シャチの種の繁栄に大きく関与している可能性があると、30年にわたる研究を行ったイギリスのエクセター大学とヨーク大学のチームは述べている。 人間の女性と同じように、シャチのメスは30歳過ぎまで子どもを産むが、その後も50年ほど生きて、家族の世話をし、知識や技能を若い世代に伝え、共同体の中で指導的役割を果たす。メスがずっとそこに居続けることは、若いオスの子どもの生存率を大幅に向上させると考えられている。

 オスは幼いときにはとりわけ弱く、母親が死ぬと、その後1年間の死亡率は14倍にはね上がるという研究データもある。一方、メスの子どもの生存率は、オスほど母親の存在に左右されないようだ。

「シャチは非常に特異な社会システムを有しており、子どもはオス・メスともに自分の生まれ育った社会集団を離れることなく、母親が死ぬまで一緒に生活する」と、エクセター大学の動物行動学講師であるダレン・クロフト(Darren Croft)氏は述べる。同氏は、ヨーク大学の生物学者ダン・フランクス(Dan Franks)氏とともに今回の研究を指揮した。

◆シャチが閉経すると、どうやって確認したのですか?

フランクス氏: 500頭余りのシャチを30年以上にわたり追跡して得たデータからです。データを見ると、メスのシャチは30~40歳代で子どもを産まなくなりますが、寿命は90歳代まであります。つまり、子どもを産まなくなってから50~60年も生きるのです。

◆同じクジラの仲間で、ほかに閉経する種はありますか?

フランクス氏: わかっているのはコビレゴンドウ(ゴンドウクジラの1種)です。他のクジラの仲間、特にマッコウクジラも閉経する可能性が事例証拠から考えられます。しかし、他の種が実際に閉経するかどうかを確認するには、まだデータが足りません。

◆哺乳類で閉経する種は、ヒト、シャチ、ゴンドウクジラだけとのことですが、ほかにいないとどうしてわかるのですか?

クロフト氏: 生物学的には、閉経というのは奇妙なコンセプトであり、生殖を終えた後も長く生きる種はごくわずかです。閉経すると我々が確信をもって言えるのは3つの種のみです。もちろんそれ以外にも、特に結束の強い家族で生活する種に、閉経するものが存在する可能性はありますが、今のところ確認されていません。

◆クジラも人間のように、閉経期にはホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)などの生理学的症状や変化を経験するのでしょうか? あるいはそれを確かめるすべはないのでしょうか?

クロフト氏: 残念ながら、クジラのメスが閉経期にどのような変化を経験するのかという生理学的データは得られていません。体が大きく、外洋に生息することから、そのようなデータを採取するのは困難です。

◆年長の閉経期のメスが集団にいることは、どのような進化上の利点をもたらすのでしょうか。具体的に、年長のメスは、若いオスの生存率をどのように上昇させるのですか?

フランクス氏: 年長のメスは、子どもの生存率を高めることがわかっていますが、その具体的なメカニズムは目下研究中です。考えられるシナリオはいくつかあり、他のクジラとの接触や餌の獲得において、知識やリーダーシップをもたらすことで子どもたちを助けているのではないかと推測できます。

◆閉経に明らかな進化上の利点があるのなら、なぜ他の生物種はこの特性を発達させなかったのでしょう。なぜクジラだけが? 彼らの特別な点はどこですか?

クロフト氏: 閉経という特性を進化させるためには、年を取って生殖活動を停止することの利益がコストを上回らなければなりません。シャチにおいて閉経が進化した理由を理解するためには、彼らの社会構造、および年齢に伴うメスの集団とのかかわり方の変化を理解することが重要だと考えられます。シャチは結束の強い家族集団を作って生活し、子どもはオス・メスともに母親が死ぬまで一緒に生活します。このような条件下では、メスは年齢とともに自分の属する集団とのかかわりを増していき、ある時点まで来ると、自ら子どもを産むよりも、既に産んだ子どもや、その子どもの世話をする役割に転じるほうが、もたらす利益が大きくなるのです。

◆閉経は動物全体においてはまれだと思われることから、クジラとヒトにはどんな共通点があるのでしょうか?

クロフト氏: クジラとヒトにおいて閉経が進化した理由を理解するには、それぞれの社会構造を理解することが重要だと考えられます。ヒトもクジラも、メスは年を取ると自分の属する集団とのかかわりが増します。このかかわりが増すということは、メスが年を取って子どもを産む役割から、子どもや孫の生存や繁殖を助ける役割に転換するほうが、進化的に有利であることを示しています。

Photograph by Ralph Lee Hopkins, National Geographic

文=Roff Smith

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