太古の芸術家は大半が女性だった?

2013.10.10
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洞窟壁画の手形は多くが女性のものである可能性が浮上。旧石器時代の芸術家はすべて男性だったという定説に疑問が投げかけられている。

Photograph courtesy Dean Snow
 最近実施された古代人の手形の分析調査から、太古の壁画の大部分が女性によって描かれた可能性が浮上している。作者が男性という説をだれも疑わなかったが、今後は再考を迫られるかもしれない。 アメリカ、ペンシルバニア州立大学の考古学者ディーン・スノー(Dean Snow)氏は、フランスとスペインにある計8カ所の洞穴を調査。描かれた手形の指の長さを比較したところ、4分の3が女性の作品と判明したという。

 長い間、創作物は男性の作品という固定観念に縛られてきた。作者とその目的について、実は勝手な想像を巡らしているだけだ」とスノー氏は批判する。

 世界中の洞窟壁画には、多数の手形が描かれている。しかし、太古のバイソンやトナカイ、馬、マンモスなど、数多くの狩猟対象の動物がまず注目され、多くの研究者が狩猟を行う男性が描いたという説を提唱していた。今回の研究結果はこれに反論を突き付ける形となる。

「狩猟採集社会で狩りをするのは、ほとんど男性だが、獲物を居住場所まで運ぶのは女性だ。男性と同じように、狩りの生産性を担っている。バイソンを追いかけ回していれば済むわけではない」とスノー氏は語る。

 スノー氏の新しい研究結果については、さまざまな意見が飛び交っている。

「手形は現代人と旧石器時代の人々とをつなぐ明確な手掛かりとなるため、壁画の研究に皮肉な事実を突き付けることもある。太古の人々の生活がわかったような気になっていても、調査を進めるほど理解の浅さを思い知らされる」と、イギリスにあるダラム大学の考古学者ポール・ペティット(Paul Pettitt)氏は述べる。

◆性差

 10年以上前、イギリス人生物学者のジョン・マニング(John Manning)氏が、男性と女性は指の長さのバランスに相違点を発見。女性は人差し指と薬指がほぼ同じ長さだが、男性は薬指の方が長くなる傾向があるという。スノー氏が研究を開始したのも同じ時期だった。

 マニング氏の研究を伝え聞いたスノー氏は、本棚から壁画に関する40年前の書籍を取り出した。裏表紙には、フランス南部の有名なペシュ・メルル洞窟に描かれた、カラフルな手形が映っている。「直感でほぼ間違いないと思った。これは女性の手だ」。

 手形はアルゼンチンやアフリカ、ボルネオ、オーストラリアの洞窟でも発見されているが、最も有名なのは、フランス南部とスペイン北部の洞窟の壁に描かれた1万2000~4万年前の手形である。

 まずスノー氏は、ヨーロッパの洞窟に描かれた数百の手形を調査。大部分はかすれてしまっていたが、スペインのエル・カスティージョ洞窟の16件、フランスのガルガス洞窟の6件、先述のペシュ・メルル洞窟の5件を含む、計32件の手形が分析対象となった。

 スノー氏は所属大学の地元で、ヨーロッパ系の人々から手形のデータを収集、それを基に作成したアルゴリズムを使って数値解析を行った。指の長さや手の長さ、人差し指と薬指または小指の長さのバランスなど、複数の測定基準に従って性別を判断するアルゴリズムである。しかし共通点も多数あるため、このアルゴリズムも完全に正確とは言い切れない。現代人の性別を正しく判断できる可能性は60%ほどだったという。

 だが、旧石器時代の人々の手形を分析する際にはさほど問題とならなかった。意外なことに、洞窟の手形は現代人より性差が大きく、測定基準と照らし合わせると男性と女性で共通する部分がほとんどなかったのである。

「非常にはっきりとした特徴が現れていた。2万年前は、男性はより男性らしく、女性はより女性らしかったということだろう」とスノー氏は語った。

◆なぜ手形を残すのか?

 結局の所、分析対象となった32件のうち、24件が女性の手形と判明した。なんと75%が、女性の手による作品ということになる。

「これは画期的な成果になる」と、カリフォルニア州テハチャピにある考古学研究のコンサルティング会社「ASM Affiliates」の考古学者デイブ・ホイットリー(Dave Whitley)氏は評価する。「壁画の手形に関して、ここ5年間ほど議論が紛糾しているが、具体的な実測データがまとめられたのは初めてと言えるだろう」。

 実り多い研究ではあるが、それ以上に多くの疑問点が生まれることとにもなった。なぜ女性作者が多いのか。女性が描いていたのは手形だけなのか、それともほかの絵も描いていたのか。あるいは、作者が現生人類ではなくネアンデルタール人だった場合でも、この測定データは通用するのか。

 しかし作者の性別はさておき、スノー氏が最も気になる疑問は、なぜ古代人はそもそも壁に手形を描いたのかという点だという。

「確かなことはわからないが、“自分が描いた絵だ、作者は自分だ”ということを示すサインではないかと思う」。

Photograph courtesy Dean Snow

文=Virginia Hughes

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