オオスズメバチの生態、人への攻撃は謎

2013.10.07
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東アジアと東南アジアに分布するオオスズメバチ。

Photograph by Alastair Macewen, Oxford Scientific/Getty Images
 世界最大のスズメバチが中国北西部で脅威をもたらしている。中国国営新華社通信によると、陝西省では人間がオオスズメバチに襲われる事例が相次いでおり、これまでに42人が刺されて死亡しているという。 オオスズメバチは2013年7月から大量発生し、負傷者は約1600人にのぼると、地元保健当局は報告している。地元当局が何百もの巣を破壊したり、負傷者の治療を改善したりといった対策を講じているにもかかわらず、被害は後を絶たない。

「オオスズメバチが問題なのは、体が大きく、人間の親指ほどもあることと、大量の毒をもっていることだ」と、カリフォルニア大学デービス校にあるボハート昆虫学博物館の責任者を務める昆虫学者リン・キムジー(Lynn Kimsey)氏は述べる。

「巣も非常に大きくなり、1つの巣に数百の個体がいることもある。攻撃的な捕食者で、ミツバチのコロニーを1つまるごと襲って食べ尽くすことで知られる」。

 体長4~5センチのオオスズメバチは、東アジアと東南アジアの多くの地域に生息し、特に日本でよく知られる。同様の被害をもたらす有毒なハチの仲間には、アフリカナイズドミツバチやスズメバチがいるが、その中でも特に危険なのがオオスズメバチだ。

◆ミツバチを襲うオオスズメバチ

 オオスズメバチがこれほど頻繁に人間を襲うことはまれだが、彼らがミツバチの巣を襲撃することはよく知られている。数千匹からなる巣をあっという間に全滅させることができ、後にはバラバラになった頭部や肢だけが残る。

 オオスズメバチは通常、巣から何キロも遠くへ飛び、偵察役にミツバチのコロニーを見つけさせる。偵察役は見つけた巣を特別なフェロモンでマーキングして仲間を呼び、集団で巣を襲撃、破壊、占領する。

 体格で圧倒的に有利なオオスズメバチは、大抵あっという間にミツバチを全滅させる。ただし、先に送り込まれた偵察役が仲間を呼ぶ前に、ミツバチが偵察役を倒すことができれば話は別だ。その際、ミツバチはときとして驚くべき防衛手段を使う。オオスズメバチの周囲に群がって「蜂球」を作り、発熱して蒸し殺すのだ。

 しかし多くの場合、ミツバチやその他の昆虫はオオスズメバチの餌食となり、彼らの巣の成長に役立てられる。成虫の働きバチは、殺した昆虫の肉を噛み砕いて栄養豊富なペーストをつくり、それを幼虫に与える。すると幼虫は、強力な“栄養ドリンク”となる唾液を分泌し、固体のタンパク質を消化できない成虫はそれを餌として摂取する。

◆なぜ人を襲うのか?

 オオスズメバチが相次いで人間を襲っている理由は、今のところはっきりわかっていない。

 陝西省にある安康市林業局の昆虫専門家ホアン・ロンヤオ(Huang Rongyao)氏は、新華社通信の取材に対し、同地域の植生が成長したことでオオスズメバチの生息環境が拡大し、また2カ月続いた暑さにより、オオスズメバチの活動性が大幅に増したと述べている。安康市は同じく陝西省の漢中市、商洛市と並んで、オオスズメバチの被害が特に多発している地域だ。

 中国、西北農林科技大学の昆虫学者ホア・パオチェン(Hua Baozhen)氏は、クモや鳥などの天敵が減ったのが原因だと指摘し、また別の専門家たちは、都市部の広がりによって、それまでオオスズメバチの生息地だったところに住む人が増えたせいではないかと推測している。

 昆虫学者のキムジー氏は、この種の行動は外来種によくみられると指摘する。ただし、オオスズメバチがこの地域にもともと生息しているのか、いつからそこに生息しているのかはわからないという。

「新たに入ってきた種にみられる現象として、何年も比較的気づかれずに生息したのち、突如として大量発生することがある。カリフォルニア州でもそのような現象が発生しており、20年前に入ってきたヨーロッパアシナガバチが、今になって急に大量発生し、どこでもみられるようになっている」。

 オオスズメバチが外来種でないなら、おそらく今年の気候が大量発生の大きな原因だとキムジー氏は述べる。「その場合、冬と春が非常に暖かく、多くの女王バチが生き延びて、その結果、通常より多くの巣が作られたのではないだろうか」。

◆交尾の季節

 加えて、秋はオオスズメバチの交尾期に当たり、この時期は、特に終盤になるとオオスズメバチの攻撃性が増すことがあると、キムジー氏は述べる。

 女王バチが交尾を終え、寒い季節が近づくと、巣は通常、終わりを迎え、働きバチは死に絶え、女王バチは越冬する場所を探す。

 新華社通信の報道によると、問題の地域では、オオスズメバチの巣は例年12月までに活動を停止するが、襲撃はそれより早くから減り始め、おそらく10月末までには発生しなくなるとみられるという。

◆死の襲撃

 襲われないためには、オオスズメバチに近づかないことが最善策だと専門家は言うが、現実にはそれが難しいことが多い。

 オオスズメバチはしばしば地中や建物に巣を作り、人間の生活圏のど真ん中に現れる。彼らを妨害したり、ただそばを通って平穏を乱しただけでも、激しい報復にあう。ときには、特に思い当たる理由もなく襲撃されることもある。新華社通信によると、9月には中国南部の学校が襲われ、30人が負傷したという。そのうち1人を除く全員が複数箇所を刺されて入院した。

「うっかり巣を刺激してしまったら、集団で襲いかかられ、何度も刺される可能性がある」と、キムジー氏は述べる。「アレルギー体質でない人でも、何度も刺された場合、血液中に入る異種タンパク質の量によって、腎不全を引き起こすおそれがある。これは敗血症のようなもので、透析を受けないと命を落としかねない」。

「死者が出るのは、おそらく早期に適切な治療を受けられないためだ」と、キムジー氏は指摘する。「中国では、おそらくハチに刺されたときの正しい治療法を知らない医師が多い。それはアメリカでも全く同じだ」。

Photograph by Alastair Macewen, Oxford Scientific/Getty Images

文=Brian Handwerk

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